関税32%の衝撃。トランプ爆弾で日本以上の重症を負う台湾が犯した“痛恨のミス”

 

半導体生産の台湾優位をいつまでも許すはずはないトランプ

これに対して日本や韓国は、どこかで「交渉で切り抜けられる」と高をくくり対米依存体質を見直すことを怠ってきた。

とくに日本はアメリカのために半導体関連技術を中国に輸出しないという輸出制限を率先して行い、アメリカからの温情を得ようと動いてきた。

しかし、その結果はどうだろうか。

輸入自動車は今後すべてのルートで25%の関税を避けられない。関税のコストがすべて価格に転嫁されるわけではないとはいえ、競争力に影響が及ぶことは避けられない。買い替えサイクルの鈍化も考慮すれば、産業に吹く逆風は計り知れない。

翻ってもう一つの巨大な自動車市場、中国での見通しはさらに絶望的だ。日中関係が好転しない問題を横においても、日本企業の新エネルギー車への転換の遅れが大きく響いているからだ。

虎の子の自動車産業が窮地に陥るとすれば日本の未来はどうなるのだろうか。

かつてキッシンジャー元国務長官は「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることはもっと致命的だ」と語ったが、まさにこの教訓を軽視した結果だ。

こうした視点で見ていったとき、日本以上に重傷だと思われるのが、実は台湾だ。

相互関税の税率からも、その意味は伝わってくる。

税率の高い順にアジアの国々を並べてみると、カンボジア(49%)、ラオス(48%)、ベトナム(46%)、ミャンマー(44%)、タイ(36%)、インドネシア(32%)、ブルネイ(24%)、マレーシア(24%)、フィリピン(17%)、シンガポール(10%)となる。

全体としてアジアに厳しい税率だと分かるが、台湾はこのなかではインドネシアと同じ水準の32%となる。半導体製品は除外されたとはいえ、決してアメリカの配慮が働いたわけではない。

台湾の半導体については半導体受託製造企業のトップ・台湾積体電路製造有限公司(TSMC)がアメリカへの巨額の投資を表明していて、その総額は1,600億ドルにも達する。

もし台湾域内に同じ額を投資し、工場を建設していたら、台湾経済にどれほど大きな貢献があったかを考えれば、大きな貢物であったはずだ。しかしこうしてすり寄ってことも完全に無視されたようだ。今後は、わざわざコストの高いアメリカに投資した意味も問われてくるだろう。

台湾のTSMCは、米インテルへの協力も求められていて、アメリカが本気で半導体を自国内で生産しようとしていることがうかがえるのだ。

パナマ運河やグリーンランドどころか、カナダさえ呑み込もうというトランプが、半導体生産での台湾の優位をいつまでも許すはずはないのは当然かもしれない。

台湾の民進党はここ数年、中国という敵を作り出すことで追い風を吹かせることに拘泥してきた。

中国を敵視すればするほど対米依存と妥協を繰り返してきた。そうやって対立を激化させた結果、台湾は何を得たのだろうか。頭を冷やして考えるときがきているのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年4月6日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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