先日発表された人口推計で、日本人の人口が89万人以上と過去最大の減少を記録したことがわかり、日本国民に衝撃を与えました。超高齢化社会という言葉が叫ばれて久しい我が国ですが、北欧などの福祉大国に比べ、日本の「福祉政策」はどこで機会を逃してしまったのでしょうか?健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、日本が高齢化社会を意識し始めた歴史を回想しながら、現政権が向いている「方向の違い」を厳しい言葉で指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「日本型福祉社会」レジームの行方
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
「日本型福祉社会」レジームの行方
2024年10月1日時点の人口推計が発表され、過去最大の89万8000人が減少していることがわかりました。
減少は14年連続で、現在の総人口は1億2380万2千人です。
年齢別にみると、15歳未満人口の減少が顕著で34万3千人減の1383万人。
全体に占める割合は11.2%で過去最低を更新。一方、65歳以上人口は3624万3千人。
前年に比べ1万7千人の増加となり、割合は0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高です。
特に75歳以上人口が前年に比べ70万人増え、割合は16.8%で過去最高を記録。
いわゆる「2025年問題」の口火が切られ、変化のピークを迎えるとされる2042年まで、高齢者はさらに増え続けます。
日本は1970年にすでに人口に占める65歳の人の割合が7%を超えている状態を意味する「高齢化社会」に突入し、95年には14%を超え「高齢社会」になりました。
しかし、家族の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的に、介護保険制度が創設されたのは2000年です。高齢化社会突入から30年後です。
北欧の国フィンランドが、1960~70年代から高福祉社会を目指してさまざまな制度を整えてきたのとは対照的です。
また、政府が出生率の低下と子供の数が減少傾向にあることを「問題」として認識し少子化対策に取り組み始めたのも「1.57ショック」と呼ばれた1990年以降です。
もし、1970年から将来を見据えて「介護問題」に取り組んでいたら、もし、少子化対策を社会の問題として真剣に取り組んでいたら、「介護難民」なんて言葉が生まれることもなかったし、「マタハラ(マタニティハラスメント)」や「パタハラ(育児に関わる男性への嫌がらせや不利益な扱い)」に涙する人もいなかったのではないでしょうか。
日本の介護制度の原型は、1979年に発表された自民党の政策研修叢書『日本型福祉社会』であり、日本型福祉社会の社会福祉の担い手は、企業と家族です。
北欧に代表される「政府型」や、米国に代表される「民間(市場)型」じゃない、「とにもかくにも、家族でよろしく!」という45年前の独自路線の福祉政策を、日本はいまだに踏襲しているのです。
今回発表された冒頭の数字が意味するのは、超高齢社会のピークまでの道のりと、その後の高齢者減少社会に向けて、何を優先し、何を捨て、何にどのように金を使い、何の金を削減するかを考え、実行することです。
どれもこれも「命」の問題です。と同時に政治家や官僚を含めた「私」の問題でもあります。
そもそも国民経済とは、この日本列島で生活している1億2000万人が、どうやって生活を維持し、所得水準を上げ、安定した生活を手にするかということを意味しているのに。
この数日間、現金給付だの、金券にするだの、マイナポイントを給付するだの、「え? なんで急にそれ?」的ニュースばかりが、永田町から漏れ伝わっているけど、我が国のトップは冒頭の数字より、トランプの関税問題しか気にならない。
「楽しい日本」とかじゃなく、この国が、私たちが目指す日本の社会を教えてほしいです。
みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
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