2025年5月15日付の読売新聞が、女性宮家の創設や女性皇族の夫と子の身分も皇族にすることを提言して注目を集めている。自民党が強引に推し進めようとしている案を否定するもので、政権ベッタリと揶揄されることも少なくなかった読売が、皇位継承問題では正気に戻った格好だ。ただ、そんな読売にご立腹なのが産経新聞。女系天皇など言語道断だとして“読売批判”の論陣を張っているのだが、いかんせん予算不足からだろうか、いろいろと様子がおかしいという。小林よしのり氏主宰「ゴー宣道場」の寄稿者で作家の泉美木蘭氏が詳しく解説する。(メルマガ『小林よしのりライジング』より)
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第362回「《読売提言》に動揺しすぎ。産経新聞の怪」
《読売提言》に動揺しすぎ。産経新聞の怪
読売新聞が発表した皇位継承に関する提言は、たちまち大反響を巻き起こしたが、なかでも特に激しく反応して、もはや困惑の極みに達しているのが、産経新聞である。その様子を記録しておく。
5月15日(木曜)、読売新聞の提言を受けて政界に衝撃と動揺が広がるなか、当日の午後イチで、まず読売の紙面を写真撮影し、ネット記事で報道したのが産経新聞だった。
【当日】5月15日 14:00
写真には、撮影者として写真部員の名前が記されている。報道写真とは、いち早く現場に駆けつけて、ぶん撮ってくるものだというイメージがあったが、机に広げた他紙の朝刊にスポットをあてて、被写界深度を調整してまで撮影するとは、一周まわって斬新だ。
事件は現場で起きているんじゃない。産経新聞の会議室で起きているのである。この記事には3人の政治家のコメントが紹介されている。
◆自民党 三谷英弘衆院議員
「男系男子しか継承できないからこそ、歴代の天皇が政争から免れ、日本の歴史が紡がれてきた側面は大きい。日本の知恵と言っても過言ではない」◆自民党 渡辺康平福島県議
「女系天皇への言及は朝日新聞と同レベルです。一体どうした読売新聞」◆国民民主党 玉木代表
「読売新聞がこのタイミングで出してきた背景が気になる」
このタイミングで出してきた背景って、お前ら以外、ほとんどの国民は、もともと「男系男子」なんかにこだわってねーわ!!
驚くのは、産経新聞の出したこの記事、政治家に直接取材して得たコメントではなく、すべてSNS上の投稿をかき集めたものだということ。
政治部の記者が足りないのかもしれない。大リーグ中継にじっと張り付いて、スコアを記録しながら、大谷翔平のホームランを速報するスポーツ新聞のほうが、まだお金がかかっている。
【当日】5月15日 16:52
この日の夕方になると、山尾しおり氏のエックスでの投稿を受けて、第2報が登場する。
産経新聞にとって、「山尾しおり」は相当デカい存在なのだろう。
山尾氏は、投稿のなかで、立民の野田氏に向けて「女系天皇の議論から逃げずに『国民の声を聞きましょう』と麻生氏をいさめてほしい」というエールを送っているのだが、産経新聞はというと、わざわざ《立民幹部も「国民民主の主張と違う」とあきれた表情を浮かべた》という発言者不明の陰口を採用して、印象操作を行っている。
【当日】5月15日 18:31
さらにこの日の第3報、またもやエックスからコメントを拾っての記事。
今度は、長島昭久首相補佐官の発言をピックアップ。
「何とも面妖な紙面でした。朝日新聞かと思わず二度見してしまいました」
「基本的な考え方を否定するような提言を大々的に打ち出す意図は奈辺にあるのでしょうか」
どうでもいいけど、面妖とか奈辺とか、なんでわざわざ古風な漢語を使うんだろう。
この日はその後も、19時、21時と記事を連投。ネット上に発信されている男系カルト議員の発言を集めて、読売新聞に対して反発を続けた。(次ページに続く)
【2日目】5月16日 8:00
さて、提言の翌日。この日も朝から飛ばす。
またもや読売紙面の写真とともに、早朝から反論部隊として登場したのは、「Y染色体」の八木秀次だった。
何を今さら新味のないものを。しかも、このタイミングで。やっとまとまりかけていた「立法府の総意」をぶち壊して振り出しに戻そうとするのか。
こんな愚痴全開ではじまる八木の寄稿は、編集して「読売は立法府の総意壊すのか」という見出しに打ち直されたものが、翌々日の朝刊紙面にも掲載されている。
内容はというと、有識者会議の案をくどくどくり返し、《初代天皇からの純粋な男系の血統》なるどこにも存在しないものを主張しているだけのつまらない内容で、「現実策」を求める読売の提言に対して、なんら現実論が語られていなかった。終盤になると取り乱していく。
「旧宮家の皇室復帰にケチか」
「穏健保守を論調としてきた読売新聞に、一体何が起きているのか」
「どうした!」「なにが起きた?」「このタイミングで!?」と困惑しているのはよく伝わるが、読売新聞は、産経新聞とは違ってカルトに染まっていなかったというだけだろう。
神武天皇の存在証明も、欠史8代という学術見解も、直視できないままのお前の脳内こそ、一体何が起きているのか。
しかも「旧宮家の皇室復帰にケチか」という言い方には、「旧宮家」というものが、お前たち一般国民とは違う特別な身分の家柄であられるんだぞ、というへんてこな差別意識が見え隠れしてもいる。(次ページに続く)
【2日目】5月16日 14:00
この日は、正午にも維新・前原誠司の「男系男子維持」の発言を速報したあと、お次の反論部隊が登場!
もはや「産経新聞って、こんな奴しか出せないのかよ」という世界線にあるのだが、竹田恒泰+《女性皇族が「国民的スーパースター」と結婚したら…》という昭和のドリフのコントみたいな見出しが視界に入っただけで、仮にも「新聞社」がそんな原稿を堂々と掲載して大丈夫なの? とため息が出る。
超要約するとこの通り。
女性皇族が結婚して民間人になっても、公務はできる。晩餐会にも参加すればいい。自分の祖父は、皇籍離脱後も多くの団体の名誉職をつとめたんだぞ。
皇族としての「ご公務」と、民間に下っても引き継ぐ名誉職とじゃ話がまるで違うし、晩餐会にも参加すればいいって、縁者として招かれる話と、そもそも皇族がいなくなる話とは別だろう。だいたい「明治天皇の玄孫」だからって、晩餐会に呼ばれたり、「ご公務」を任されたりするわけないやろが!
旧宮家を民間人だと言うけど、民間出身だからダメなんて、皇后陛下や上皇后陛下に失礼だぞ。
結婚によって自然に夫婦の関係性が築かれる話と、むりやり養子縁組して「天皇のお子様である愛子様より、昨日まで国民だったこちらの男性のほうが大事」となるのとでは話が別!
女性皇族が、大谷翔平や羽生結弦のような高感度の高い国民的スターと結婚したら、その間に生まれた男の子を「皇位継承者にすべきではないか」「皇位継承権がないのは差別だ」となり、世論の8~9割が賛成して、皇統が断絶するぞ。
断絶しません!しかも、「世論の8~9割が賛成する」と自分で言ってしまっている。
なんで大谷……というツッコミは置いておいて、別に、お相手が従前からの国民的スターでなくても、世論のほとんどは、お子様が生まれれば、女の子でも男の子でも皇位継承されることに賛成するのだ。「女性皇族」だ「男の子」だといちいち性別をあげつらう竹田が、差別をしているだけである。(次ページに続く)
竹田恒泰が読売新聞の幹部に講釈を垂れていた!?
実は、竹田恒泰、この記事とほぼ同じ内容のトークを、読売新聞の提言当日、自身のYouTubeチャンネルでライブ配信している。約3時間の配信中、読売批判に当てたのは80分だった。
その大半は支離滅裂だったが、序盤でこんなことを話していた。
「(読売新聞の提言について)『ビックリ』と言う人がいるんですけども、まあ、私に言わせるとぜんぜん驚きません。だって、読売新聞は20年以上前から女系容認派だから。小泉内閣の時に『女系容認』って書いてたんだから。そして、野田内閣の時ね、民主党政権で、『女性宮家賛成』って書いてたんだから」
「読売新聞はもうダメだと思ってます。なぜかというと、私、経営幹部に1時間以上かけて説明したから。小泉内閣の時に、読売新聞の編集委員長とか社長とか、ずらりと幹部が居並ぶ中に呼ばれましてね。説明したんです。それでもわからなかったから、もうダメですね」
竹田恒泰が、読売新聞の幹部に呼ばれて、講釈を垂れていたとは初耳だが、カルト話を1時間も聞いて、まったく騙されずに今日まで来ていたのだから、まともな感覚の人が多いんだろう。
読売新聞と言えば、安倍政権時代にとみに「政権ベッタリ」の様子が見られるようになり、一時は「大本営発表か?」と思われるような姿勢もあったため、すっかり「政府・自民党を後押しするような意見なんだろう」というイメージを持っていた。ところが、皇位継承問題に関しては、しっかり見極めていたのだ。
提言の内容も、間違っている部分(※編注:メルマガ2025/5/20号で小林よしのり氏が別途詳しく解説)はあっても、決して即席で作れる内容ではないから、社の見解として積み重ねてきたものがあったはずだ。参院選を前に、世論を喚起してやりたいという熱意も感じる。
産経新聞も、かつては「男女がともに女性天皇への道を開くのは当然である」と主張していたのだが、こちらは見事にカルトに乗っ取られて変わり果ててしまったという格好だ。(次ページに続く)
【3日目】5月17日朝刊 産経抄
さて、提言から3日目、よほどショックでぐらぐら揺れている産経新聞は、引き続きふんばっている。
この日の「産経抄」の見出しは…
《読売の女系天皇容認提言は面妖な季節外れの怪談か》
長島昭久の《面妖な紙面でした。朝日新聞かと思わず二度見してしまいました》というフレーズが、よほど気に入ったらしい。
「めんような/きせつはずれの/かいだんか」と五七調に仕上げているところもなかなか趣がある。
産経抄の筆者は、安倍晋三と親交が深かったらしく、女性皇族ご本人が宮家創設についてどう考えているのかという問いについて、本人からこんな証言を聞いたという。
「女性宮家になりたい方は誰もいない」(平成29年5月22日)
「みんな全然望んでいない」(平成30年2月13日)
「皇族と接していれば分かる。自由な生活をしたいと望まれている」(令和元年5月12日)
ふーん。そんなに「証言」を聞いているのに、旧宮家系の方のなかに、皇籍を取得してもいいという人物がいるのかという問いに対して、安倍晋三が「それが、いないんです」と話していたことは、聞いていないのだろうか。
ま、産経新聞にそんなこと話したら、怪談ばりのパニック起こすから言えないよな。(次ページに続く)
【3日目】5月17日 19:40
この日の夜には、さらにこんな記事が登場した。
《「女系天皇」読売は昨年から主張していた 渡邉恒雄氏の「遺言」と考えるとつじつまが合う》
お、お、おう。
これって……「面妖な季節外れの怪談」ってやつなのか!?
朝一番にネタ振りをしておいて、夜にはみずから面妖なつじつま合わせをぶっ込んでくる産経新聞。すごい技を繰り出してくるものだ。
「つじつまが合う」って、いくらネット記事でも、およそ新聞社が見出しで使う言葉とは思えない。取材に基づいた事実や論理整合性ではなく、「僕たちびっくりしちゃったけど、ナベツネの遺言なんだと思えば、納得できる気がする」という推理の開陳である。
で、どんなつじつま合わせなのか。
問題はこの内容を、なぜ「大読売新聞」が堂々と掲載したかだ。
やたらと読売を恐れ、そう疑問を持った産経記者が調査してみると、実は、読売新聞が、ほぼ1年前の5月19日に今回の提言とほぼ同内容の社説を掲載していたという事実に突き当たったという。
そして記者は、その時点では読売新聞の主筆だった「ナベツネ」こと渡邉恒雄がまだ存命だったことに気づいてピンとくる。
皇室に関わるような社説について主筆である渡辺氏が関係していなかったとは考えにくい。
そして記者は、ナベツネの人生を振り返り、思うのだ。
渡辺氏は東京帝国大学在学中、学徒動員で戦地に赴き、上官からの暴力などで相当に嫌な思いをしたことなどをインタビューなどで語っている。また、軍国主義、国家主義的な考えに反発して戦後の一時期、日本共産党の党員だったことも明かしている。
え。産経記者、戦後の一時期、若きナベツネが共産党に入党していた時期があったというだけの話から、
「ナベツネ=共産党」=「読売新聞=共産党」=「皇統断絶に導く!」
というつじつま合わせに成功したらしい……。
だが、それを言うなら、産経新聞も過去には読売とまったく同じ「男女がともに女性天皇への道を開くのは当然である」という主張を社説で述べていたことがあるし、だいたい、フジサンケイグループを創設して、大阪の小さな産業新聞だった御社を、全国紙「産経新聞」にした初代社長の水野成夫は、もともと共産党の「赤旗」初代編集長だった人なんですが???
大丈夫か、産経記者ー!!(次ページに続く)
産経新聞の断末魔
産経新聞は、経営状況が風前の灯という現実に直面している。
最近発表された6か月間(2023年12月~2024年6月)の新聞の発行部数レポートによると、読売・朝日・毎日がそれぞれ6~8%減少しているのだが、産経新聞は特に厳しく、26.7%もの急落となっている。
発行部数は100万部を切って84万部。もはや聖教新聞に負けてしまうのではないかという状況だ。
こうなると「月刊Hanada」と同じで、なんとかして今いる購読者にしがみつくような紙面づくりをしなければ、経営が成り立たなくなる。
まともな報道よりも、脳が石灰化した男尊女卑層のじいさんが好む記事を連発するしかなくなるのだ。その最後の砦が、「男系男子絶対!」ということだろう。
哀しい。その歪んだ方針は、まともな読者からますます見放される要因になっているだろうし、フジテレビ騒動の影響まで加わって、他社の数倍もの急落につながったのだと思われる。
今後もますますの狂い咲きが予想される。この先、産経新聞の断末魔を聞くことができるか?
……と、この原稿を書いている5月19日(月曜)の朝刊で、産経新聞、またもやまた「反読売」を全力展開(女性宮家創設など読売新聞の提言内容、女系天皇検討にも言及 「専門家に取材」も登場せず)。なかなかしぶとそうだ……。(その2に続きます)
(MAG2NEWS編集部よりご案内)「泉美木蘭のトンデモ見聞録・第362回『《読売提言》に動揺しすぎ。産経新聞の怪』」はいかがだったでしょうか?さらにメルマガ2025/5/20号では、小林よしのり氏のメインコラム「ゴーマニズム宣言」でもこの問題を検証。読売提言を高く評価する小林氏が主な論点を整理したうえで、読売記事の細かい間違いについて指摘する内容となっています。皇位継承問題を考えるにあたって必読の号、全文はメルマガ登録の上お楽しみください。
(メルマガ『小林よしのりライジング』2025年5月20日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)
2025年5月20日号の小林よしのりさんコラムは「皇統問題:読売新聞提言のあと一歩の惜しい点」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
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