イスラエルへの軍事的働きかけを行わない中ロの算段
またスタン系の国々は、カザフスタンを北端とし、その後、インド・パキスタンに至るSouthern Corridorを通じてアジアに戦火の影響を及ぼすことになるかもしれません。
ちょうどカナダでG7サミットが開催されていた際、カザフスタンで中国とスタン系の国々のサミットが行われましたが、その際に「戦争の影響がアジアに及んできた際の対応策」についての議論が行われたとカザフスタン政府の要人から聞きました。
これだけ聞くと「ああ、中国は自国に戦火が及ばないように考えているのか」と考えたり、「最近、自ら調停のための国際組織を設立したこともあり、国際社会の安定と紛争の終結のための体制を整えるのだ」とポジティブなイメージを持ってみたりしたくなりますが、実際には全く別の戦略と思惑が働いていると思われます。
今回、イスラエルによるイランへの攻撃と、圧倒的な軍事力の差を用いて、徹底的にイランに攻撃を加えている様子を中国もロシアも激しく非難していますが、イランを支援して背後に控えつつも、表立って本格的にイスラエルに対する軍事的な働きかけを行っていない理由は、国際社会の非難に対する目くらませとして、イスラエルとイランの戦闘が貢献してくれるという算段が存在するからでしょう。
実際にメディアの取り上げ方を見てみても明らかですが、(中ロを非難する欧米メディア)は挙ってイスラエルとイランの報復の応酬とエスカレーションについて報じ、これまで取り上げてきたロシアの蛮行とウクライナの足掻きについての報道がほとんど見られなくなりました。
とはいえ、ロシアとウクライナが停戦したという状況は存在せず、国際社会の目が少しロシアとウクライナから離れている隙に、ロシアは大規模攻撃をウクライナ全土に浴びせかけ、徹底的にインフラと市民生活を破壊し、同時にウクライナ東南部4州の完全掌握に勤しんでいます。
またクルスク州に北朝鮮と中国の企業体を呼び込んで開発・復興案件を与えることで、この戦争に参加するインセンティブを与えて、戦争を有利に進めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦時中にもかかわらず、カナダのG7サミット会場に出向き、各国首脳に対ウクライナ支援の継続と支援を要請しつつ、「ウクライナの戦いは自由資本主義陣営を代表して全体主義と戦っていることの象徴」と位置付けてアピールをしましたが、トランプ大統領不在の場での訴えは、体裁だけを気にする欧州の企てに用いられただけで、実質的な対ロ戦の継続と戦況の好転のための材料を何一つ与えられないという惨めな状況を生み出しました(またすでにトランプ大統領とアメリカ政府のウクライナ離れが加速していることも知らしめた結果となりました)。
プーチン大統領とロシア政府は、中国と共に、イスラエルとイランの戦闘の激化に対しての懸念を明確に述べながら、国際社会の目をロシアとウクライナから離し、その隙に一気にこの戦争を終わらせ、同時に国家としてのウクライナを終焉させるべく動いています。
そしてその場からアメリカを引きはがすために、トランプ大統領とプーチン大統領の間での電話首脳会談を行い、イラン核問題でのロシアの協力の可否とその内容についての議論にアメリカの注意を惹き、ロシア・ウクライナ戦争からアメリカの関与を無くすことに尽力しています。
今、ネタニエフ首相がイランの対イスラエル攻撃の方策をことごとく削ぐ動きをしているように、プーチン大統領は今、ウクライナがロシアに反撃し、奇襲攻撃など二度と行うことができないように徹底的に打ちのめそうという戦略を実行に移そうとしています。
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