昨年末に発覚し、大きな社会問題にまで発展した元タレント・中居正広氏を巡る女性トラブル。その後も次々と人気芸能人絡みの不祥事が明るみに出るなど、メディア業界のハラスメント体質は万人の知るところとなってしまいました。そもそもなぜ我が国ではセクハラ・パワハラがここまで横行し、改まる気配がないのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東森さんが、その要因をさまざまな観点から考察。ハラスメント被害が後を絶たない背景を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:相次ぐメディア企業のセクハラ・パワハラ問題 “私たちは被害者でした”のその先へ 問われる構造と社会の責任
温存される業界構造の歪みや日本社会の闇。相次ぐメディア企業のセクハラ・パワハラ問題の本質
2025年も折り返しを迎えたが、日本の芸能界や大手メディア企業では、パワハラやセクハラの告発が相次いで表面化している。
中居正広については、2025年1月の芸能界引退発表直後、フジテレビ関係者やスタッフへのセクハラ・パワハラ疑惑が報じられた。
国分太一(TOKIO)は、2025年6月に無期限の活動休止を発表し、日本テレビの『ザ!鉄腕!DASH!!』からも降板した。
田原俊彦は、TBSラジオの生放送中に女性アナウンサーの手に触れる、男性器を想起させる発言を繰り返すなどのセクハラ行為を行い、TBS側が公式に謝罪する事態となった。
ただこうしたパワハラ・セクハラの横行には、日本特有の企業文化が深く関与している。いまだに「上司には逆らえない」という風潮が根強く、権力を持つ立場の人間による不正行為が黙認されやすい。被害者は「仕事を失う」「キャリアに傷がつく」といった恐れから声を上げにくく、社内の相談・通報制度も形骸化している。
また、日本の司法制度は被害者の救済に消極的で、訴訟の負担に比して賠償額が低く、多くの人が泣き寝入りを強いられているのが実情だ(*1)。
国連人権理事会も、「日本の芸能界ではハラスメントの法的定義が曖昧で、加害者が処罰されないケースが多い」と警鐘を鳴らしている。
■記事のポイント
- 日本の芸能界・メディア企業でセクハラ・パワハラの告発が続出、司法や労働行政の対応が不十分
- 日本企業の人権意識や内部統制は国際基準に遅れ、法制度の弱さが被害者の救済を妨げている
- アナウンサー職の表面的な華やかさが志望者を惹きつける一方、実態は過酷で、社会を読み解く教育や就活構造にも構造的問題が
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「ビジネスと人権」遅れる日本 国際標準との深刻なギャップ
日本企業における人権軽視の企業文化は、現状、グローバルな「ビジネスと人権」潮流との間に大きな乖離を生じさせている。
日本企業の人権意識や内部統制の低さは国際基準から大きく遅れている。欧米では「ビジネスと人権」に関する法整備や人権デューデリジェンス(DD)の義務化が進み、企業活動における人権配慮が当然視されている。
一方、日本では2020年に政府が「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)を策定し、企業に人権尊重の取り組みを求め始めたものの、法的強制力は弱く、現場での実効性も限定的(*2)。
厚生労働省の調査でも、過去3年以内に職場でパワハラを受けた人が約3人に1人と高率であるにもかかわらず、ハラスメント対策を実施している企業は半数程度にとどまっている。
そもそも、日本では人権という言葉や制度は定着しているが、その本質的な意味は浸透していない。日本の人権観は欧米の「天賦人権説」と異なり、「国家から与えられるもの」として捉えられてきた。これにより、権力に対して権利を主張する考えが根付きにくい環境が形成(*3)。
学校教育でも、差別の歴史は教えられるが、「生まれながらの不可侵の権利」という本質的教育が不足している。そのため権利主張は「わがまま」とされ、とくにその場の「空気を読む」ことが優先される(*4)。
米欧では厳罰、日本は無力 ハラスメント対策における構造的後進性
日本でセクハラやパワハラの被害が後を絶たない背景には、司法制度が被害者保護の役割を十分に果たしていないからだ。たとえば、あるスポーツ指導者によるセクハラ事件では、被害者が約450万円の損害賠償を求めて提訴したものの、裁判所が認めたのはわずか11万円にとどまった(*5)。
司法アクセスの困難さも、日本の法制度全体にも表れている。2019年時点で、日本の弁護士は人口3,100人あたり1人にとどまり、アメリカ(約240人に1人)、ドイツ(約500人)、イギリス(約400人)と比較して極端に少ない(*6)。とりわけ地方では弁護士へのアクセスが制限されやすく、労働問題を含む人権侵害に対する法的支援体制が脆弱だ。
行政による労働監督機能も十分とは言いがたい。日本の労働基準監督官は約3,000人と一見多いが、実際に臨検・監督業務を行う実働人員は約2,500人にすぎない。全国の事業所数は約400万件にのぼり、1人の監督官が約1,300事業所を担当する計算になる。その結果、1つの事業所が監督官の立ち入りを受けるのは約10年に1度という低頻度にとどまる(*7)。
一方、欧米諸国ではより厳格な労働監督体制が敷かれている。米国では2,000人超の監督官が強制執行権限を有し、違反企業に対して実効性のある制裁措置を取ることが可能だ(*8)。欧州でも、抜き打ち検査や高額罰金などが制度化されている(*9)。
キラキラの裏にある“メディアの闇” アナウンサー志望者が見抜けない業界の構造問題
近年、ハラスメント被害の告発が相次いでいる。しかし、単に「私たちは被害者でした」と表明するだけでは、問題の本質──すなわち、業界構造の歪みや日本社会の闇──を温存したままにしてしまう。
とくにアナウンサー職は今なお「夢の職業」として強いブランド力を持つ。特にキー局のアナウンサーは高収入で、芸能界やインフルエンサーとしての道も開かれている。こうした華やかなイメージが、若者を惹きつけてやまない。
しかし実態は、過酷な労働環境やハラスメントリスクをはらんでいるのが現状だ。放送局は「人気企業」としての表面的な魅力ばかりを強調し、長時間労働や上下関係の厳しさなど、闇の部分を覆い隠す傾向がある。志望者が企業研究を行ったとしても、内実は入社前に見えにくい。
もちろん、志望者側の情報収集不足も課題ではある。しかしそれは個人の責任だけでなく、業界の閉鎖性や情報の不透明さにも起因している。OB訪問や就活サイトではポジティブな話題ばかりが共有され、実態に迫る情報は乏しい。
また、採用プロセスが特殊で(カメラテスト、面接対策など)、学生は準備に追われ、企業文化を深く分析する余裕がない。加えて、日本の教育システムは偏差値偏重であり、批判的思考や社会構造を見抜く力を育てにくい構造にも問題があるだろう。
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■引用・参考文献
(*1)「国連ビジネスと人権の作業部会による訪日調査最終報告書を踏まえて、日本政府及び企業に対して国連ビジネスと人権指導原則に基づく責任ある行動を改めて求める」特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ 2024年5月30日
(*2)佐藤暁子「『ビジネスと人権』に関する行動計画の現状と課題」ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター) 国際人権ひろば No.162(2022年03月発行号)
(*3)「『職場のハラスメントに関する実態調査』の報告書を公表します」厚生労働省 2024年5月17日
(*4)森島豊「日本人はなぜ『人権』をうまく理解できないのか、その歴史的理由」現代ビジネス 2020年6月28日
(*5)有本圭佑「スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメント(3)」小西法律事務所 2025年3月17日
(*6)「弁護士の人数の推移【男女/都道府県/五大法律事務所別など】」AGAROOT CAREER 2024年12月26日
(*7)家永勲「労働基準監督署の調査 定期監督・申告監督の対応」弁護士法人ALG Associates 2023年10月3日
(*8)「アメリカの労働基準監督官制度」独立法人 労働政策研究・研修機構 2018年4月
(*9)「ドイツは長時間労働をさせる企業に罰金!」ZUU online 2025年1月22日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年7月13日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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