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「暗黒」よりも絶望的。参政党が躍進した参院選が描き出す「薄暗い未来」という光なき日本の未来像

20日に投開票が行われた参院選で、囁かれていた「歴史的大惨敗」こそ免れたものの、衆院に続いて少数与党に転落した自公。その一方で、「日本人ファースト」を掲げた参政党は事前の予想通りの大躍進を見せました。この結果を「日本の薄暗い未来を描き出した」とするのは、作家で米国在住の冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、そのように判断する理由を詳しく解説。さらに参政党がここまで票を伸ばした要因を分析するとともに、当選挙の総括を試みています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:参院選が示した薄暗い未来

日本が突入した「新しい時代」。参院選が示した薄暗い未来

参議院選挙が終わりました。結果は複雑であり、例えば自公政権の側から見れば大敗ではあるものの、47議席というのは崩壊というほどではないわけです。与野党の議席差についても、確かに少数与党ではありますが122対126では、大差ではありません。

そんなわけで、政権選択という意味では、明確な結果は出ませんでした。民意はある意味では、明確な決定ができなかったとも言えます。そうではあるのですが、今回の選挙結果については、これまでの国政選挙とは全く次元の異なる、日本の未来像を描き出したとも言えます。それは一言で言って、薄暗い未来ということです。

薄暗いというと、暗黒とか漆黒よりは「まし」に聞こえますが、そうではありません。漆黒の闇であれば、その先に「かすかな」ものであっても光が見えれば、その方向へ進むことができます。また、朝の来ない夜はないという言い方があるように、漆黒の先には大きなサイクルとしての好転が期待できるとも言えます。

薄暗い未来というのは、そうではありません。明らかに闇は濃くなっているし、その先もどんどん濃くなっている、好転の兆しはない、そして方向性を示す光もない、そんな感じです。とにかく、従来の国政選挙とは異なる結果が出たことで、日本は新しい時代に入ったように思います。

いちばん大切なのは、この間、ずっと心配していた野党ビジネスの定着ということです。誰が政権を担ってもうまく行かない中で、野党は野党として批判者であり続ける、そうすると現状不満エネルギーを吸収することができる、このメカニズムが勢いよく回り、今後も回り続けるかもしれないということです。

選挙結果が見事にこれを示しています。比例で見ていくと、自民が1,280万で、公明が521万、合計が1,801万でした。これに対して、中道右派から中道左派の政党だけ集めても、国民762万、立民740万、維新438万で合計1,940万もあります。これとは別に右派が参政743万と保守298万で合計1.042万、左派のれいわ388万と社民122万で合計510万になります。

ですから、様々な足し算をすれば連立で多数政権を形成することは、いくらでも可能です。例えばですが、地方区も入れた参院の議席数で見れば昔の新進党から民主党に近い枠組みで、立民38、国民22、公明21、れいわ6、社民2で合計が89議席あります。ですから、自民の101議席から三分の1を引っこ抜けば昔の新進党的な格好で過半数は作れてしまいます。

真ん中から右で結集するとして、維新19と参政15で34議席あるので、国民22も巻き込んで56。そうなると、自民の3分の2が合流すれば中道から右派の過半数ができてしまいます。ですから、30年前の小沢一郎氏のような「剛腕」の人物が誰かいて、政権獲得や大臣ポストの分配などの「エサ」で釣れば、いくらでも政権構想は成り立ってしまいます。

ですが、現在の各野党はそうした誘惑には乗りません。現在の日本は経済社会も、そして軍事外交も極めて困難な状況にあります。そんな中で、世論には現状への不満が渦巻いています。ですから、こうした時期に政権を担うというのは、無理ゲーであり、罰ゲームだと言えます。野党であればいくらでも政府批判ができて、世論の受け皿になるわけですが、政権与党になれば批判の対象になるしかないのです。

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有権者が下した「国の破綻」を大きく引き寄せる判断

そんな中で、今回の結果は「出来過ぎ」と思えるぐらいに分散してしまい、そこには偶然もあると思いますが、仮にこの先も「衆院だけでなく参院も少数与党」で自公政権が続くのなら、この「大勢が野党という甘い汁に安住」する構図が続くことになります。この無責任な構図というのが、もしかしたら相当の期間続くかもしれず、そうなれば、今回の参院選はこれを決定づけたということになります。まさに気がついたら「薄暗い時代」というわけです。

更にこの「薄暗さ」を決定づけたのは、以下の3点です。非常に重要ですので、まず列挙しておきましょう。

「財政規律に関してはもっと緩めていいという選択がされた」

「人口減による労働力不足を移民で補完する政策は、根本的なノーが突きつけられた」

「格差を直視するのではなく、敵を作って連帯するという陰謀論とイデオロギーの麻薬が大幅解禁されてしまった」

この中で最も重要なのは、財政規律だと思います。今回の選挙に至る「減税」か「給付」かという議論については、減税は恒久的で給付は一回きりという違いがある中で、給付論が負けたわけです。それだけ、国民の物価高あるいは実質購買力の減少への怒りが大きかったわけですが、同時に財政規律への関心といいますか、節度が壊れてしまったということが言えます。

これはポピュリズムに流れた野党が悪いだけでなく、財政破綻の恐怖についてしっかり説明ができなかった自民党にも大きな責任があります。そもそも、日本はGDPの2倍以上という先進国の中で最大の国家債務を背負っています。ですが、この債務は国内の個人金融資産とチャラになっていて、国としては国外から借りていないので大丈夫というのが、過去の自民党や財務省の説明でした。

ですが、財政への節度を失っていけば、やがて日本は世界から金を調達しなくてはならなくなります。そうなれば、日本という国の経営状態が厳しく審査されて、その国債が評価されていきます。今は、日本の金利が低いので日米の金利差が大きい、そこで円安になっています。ですから金利を上げると円高になるという状態です。

ところが、ある臨界点を過ぎると「金利を上げないと金が借りられない」ということになり、金利を上げれば上げるほど円が下がっていくことになります。勿論、円が下がればドル建ての借金は小さくなるのですが、その効果は限定的であり、とにかく金利が上がって円が下がります。そうなれば、エネルギーと食料を輸入に頼る日本では物価はどんどん上がります。いわゆるハイパーインフレになります。

そうこうするうちに、日本という国全体がドルで見たらどんどん小さくなり、日本国内の「優良な会社や優良な不動産」は外資に買われていきます。また国内の資産家は資産を海外に移転するようになります。その先には国債が返済できなくなる、つまり国家破綻がやってくるわけです。

この国家破綻を避ける、これはどの国にとっても最前提の国策です。ですから、石破政権は消費税制度を維持することにこだわったのですが、今回の選挙ではこの構想にはノーが突きつけられてしまいました。ということは、2011年から2012年にかけて当時の野田政権と自民党、公明党の間で交わされた3党合意が崩壊したということになります。

では、3党合意の際に掲げられた「安心できる社会保障」はどうなったのかというと、出生率は当時の見込みと比較すると破滅的に悪化しているわけです。そうなると、年金も健保も更に破綻が近くなっているわけです。そうした全ての問題を全く議論しないで、とにかく物価高なので消費減税ということが民意として出てしまいました。これは事実上、国の破綻を大きく引き寄せる判断だと思います。

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「敵を作ってイデオロギー論争を仕掛ける」という姑息

2つ目の移民へのノーですが、今回の参政党の躍進は、フィクションも交えた様々なレトリックに有権者が乗っただけとは言え、その根底にあるものとしては、「日本人による、日本人のための日本」という思想だと思います。これは、賃金の低い現場労働者を入れれば日本人の雇用は脅かされないし、人手不足の対策にはなるが、治安は悪化するというロジックを伴っています。

それだけではなく、漠然とした「移民が入ることになって日本が変わること」へのノーも伴っています。これに対して、例えば立憲などは「多様性が大事」などという意味不明なメッセージで対応して票を減らしました。これは、移民を入れないと経済も社会も回らないことをハッキリ打ち出すのではなく、「豊かな国である日本は多様性という理想を実現してより自己評価を高めたい」というような「既に失われた豊かさ」からの視線でした。そのダメさに無自覚ということで、これは負けても仕方がなかったと思います。

そうではなくて、できる限り日本を改革して、最先端産業による先進国経済を回す、そしてグローバリズムに適応できなかった過去40年の失敗を乗り越える、そのための知的な英語話者の労働力を入れるべきなのです。ですが、今回の選挙結果は、そうした高度移民にもノーが出てしまったと位置づけられます。

そんな中で、参政党が主なのですが、敵を作ってイデオロギー論争を仕掛けるという手法が乱用されました。勿論、過去にれいわや左派政党がやってきた反原発にしても、維新がやってきた福祉やインフラのコストカットにしても、確かに敵を作って論争を仕掛ける手法が使われてきたのは事実です。安倍晋三氏などの手法もそうでしたが、安倍氏の場合は敵を作って右派ポピュリズムを求心力としながら、実際の政策は中道左派的にやるという高等技術がありました。

ですが、今回の選挙で吹き荒れたポピュリズムはネットの活用により、あるいは欧米での現象を参考にすることで、更にタチが悪くなっていると思います。というのは、単にイデオロギーや情念が暴走するという問題ではないように思います。そうではなくて、日本社会が直視しなくてはならない格差を「なかったこと」にする、そして「ありもしない連帯意識」によって、仮想のコミュニティを作るということです。

この仮想のコミュニティのためには、敵が必要であり、敵を叩くためにイデオロギーが必要になるというメカニズムが回っているわけです。では、そこで隠される格差とは何かというと、3つの格差です。それは「グローバル経済にアクセスしている層と、していない層」「1980年代までの経済の恩恵に与った層と、そうでない層」「地方と大都市圏」という3つです。

日本の社会が前へ進むためには、この3つの格差を浮き彫りにして、そこにメスを入れていくことが必要です。グローバル経済については、敵視するのではなく、経済の全体が適応してその結果を受けるようにすべきです。世代間格差については見える化した上で移転の方法を考え、移転についても蕩尽ではなく投資としてリターンがあるようにすべきです。都市と地方の格差はそれこそ、日本経済の浮沈のかかったテーマとして取り組むべきです。

そうなのですが、こうした格差を直視するのは政治的にも高度になります。何よりも、選挙の場合は格差のある2つのグループの双方から集票がしたい、となると格差に突っ込んでいくのは損ということなのでしょう。反対に、どうでもいいイデオロギーの話を前面に出して、不要なコミュニティ、不要な連帯意識を仕掛けて票にする、そうした手法が取られました。

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具体的な論点について民意を問うことから逃げた参院選

いずれにしても、今回の選挙では、野党はより野党ビジネスの「うま味」に酔いしれ、与党は「統治という無理ゲー」を抱えてより追い詰められました。そして、財政規律については「ユルユル」となり、「移民による労働力補に完はふわっとした嫌悪が固定化」しました。そして、直視すべき格差は隠されて、代わりに敵を作ることでイデオロギーの虚しい仮想コミュニティを作るということが流行したのです。

その先にあるのは、方向性のない、そして闇の深まりを抱えた「薄暗い未来」ということになります。

更に言えば、様々な具体的な論点について、民意を問うことから逃げた選挙でもありました。例えばコメを巡る政策がそうです。小泉農水相は消費者米価安定に奔走しましたが、彼の独自の持ち味である「米作の大規模化による生産者と消費者の双方のウィンウィンになる落とし所」という主張は、零細農家の反発を恐れて封印させられました。

そのくせ、地方では小泉氏の消費者米価安定策が「生産者米価下落策」だというデマとなって、自民党の逆風になりました。これにより、コメに関する政策は更に迷走することになると思います。この問題については、その一方で、選挙戦の中盤に議論されたほどには「自民党の票を食ってはいない」という見方もあります。もしかしたら、選択はできなかったけれども、問題の難しさについては、ある程度は議論の下地はできたのかもしれません。

争点化しなかったということでは、原発問題もそうです。但し、こちらについては、ここまで電気代が上がる中では再稼働や新設でエネルギーの安定供給をすることは必要だという、静かな合意は進んでいるのかもしれません。

そんな中で、今回の選挙で一つだけ良かった点を挙げるのであれば、日本という国がここまで貧しくなったことへの「悔しさ」というのが、かなり明確に票として出てきたということです。もう戻らないのに、30年近く「経済の再生」などというお経を唱えたり、財政もGDPもどんどん細くなるのに「骨太のナントカ」などという言葉遊びで長い時間を空費してきたことへの「ノー」というのは、やはり評価しなくてはなりません。

またごく一部ですが、明確な改革志向を持った票というのも形を取るようになってきました。そう考えると、未来へ向けての灯火ということでは、全くの闇というわけでもないように思います。そうなのですが、全体としては「統治の無理ゲー+リスク逃避という野党ビジネス」「ズルズル・ユルユルの財政規律」「労働力としての移民への漠然としたノー」という3つのダメ判断が象徴した選挙でした。

今回の選挙でハッキリとしてきた「薄暗い未来」をどうするのか、具体的な作戦、つまり戦略戦術について、改めて読者の皆さまと議論して参りたく思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年7月22日号「参院選が示した薄暗い未来」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「エプスタイン・ファイル問題、MAGA派に蛙化はあるのか?」や人気連載「フラッシュバック80」、読者Q&Aコーナー(日本のローカル文化について)もすぐに読めます。

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image by: 神谷 宗幣 @参政党 - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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