意外な形で終結する可能性が高まったウクライナ戦争
この背後に何らかの形でロシアと中国の情報工作が存在するのではないかとの推論も出てきているものの(多分存在していると思われますが)、ウクライナ国内においてゼレンスキー大統領が進める権力・権限の集中は、アメリカのトランプ政権も、ウクライナのEU入りの是非を議論するEU諸国も危険視し始めており、これがゼレンスキー大統領の望むNATO入りやEU加盟交渉にネガティブな影響を与えそうだとの懸念が出てきています。
欧米諸国も中ロの関与を疑ってみるものの、実際にゼレンスキー大統領が権力集中を進めることでウクライナ国内から倒幕運動が起きて、意外な形でウクライナ戦争が終結する可能性が高まったという見方をする分析も多数上がってきています。
トランプ大統領が、対ロ圧力という意味合いも込めて、ウクライナに対して、NATO経由でのパトリオットミサイルの追加供与を表明したり、欧州各国もウクライナへの追加支援を表明したりしていますが、それらの到着が著しく遅れているのには、王毅外相の言葉の裏返しのように「ロシアがウクライナ戦争において敗北することはなさそうだ」という見解が高まってきている状況が覗えます。
そのような中、特に欧州各国はロシアが何らかの形でロシア・ウクライナ戦争に勝利した場合(有利な条件での停戦含む)に備え、ロシアと組む中国との協調体制を深めると同時に、ロシアに対する非難を弱めつつ、Beyond UkraineでロシアがEUの一角を軍事的・政治的に崩しにかかる事態に備え始めています。
先述の中国との協力体制の強化もその一環ですが、EUは同時にNATOメンバーでありつつ、ロシアや中国ともチャンネルを持つトルコに最接近を図っています。
その一つがトルコが切望していたユーロファイター・トルネード戦闘機の共同開発および調達の実現です。
共同開発は英国が行い、これまでトルコへの供与に反対し続けたドイツが(トルコの希望通りに)40機の提供に合意して、トルコを欧州の防衛網に取り込もうという動きが見えます。
共同開発は英国企業とトルコの軍事産業が、ドイツやスペインなどの共同開発国と協力して英国内とトルコ領内で行うこととなりますが、これでトルコの空軍能力は格段に向上し、もし欧州から追加でユーロファイター・トルネードに搭載される英独製の空対空ミサイル「ミーティア(Meteor)」も入手することになれば、ロシアの目と鼻の先に強力な空軍力が構築されることになり、そのトルコがNATOの一員として、憲章第5条に定められるように、欧州同盟国の防衛に貢献してくれるのであれば、ひとまず欧州圏の防衛システムは強化される方向に動くことになります。
欧州各国からのこのような動きを受けてか、エルドアン大統領は「トルコとの協力無くして欧州の安全保障は確立しない。今回の欧州各国の英断に敬意を表する」と歓迎の意を表明していますが、先週号でも触れたように、これはトルコの対イスラエル防御力および攻撃力をも飛躍的に高めることになり、中東地域での新たなパワーバランスを構築することにも繋がります。
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