習近平「デジタル監視力」とプーチン「秘密工作」の絶妙なコンビネーション。中露が混乱極まる国際社会で推し進める“裏工作”の標的は?

 

否定できない中ロが何らかの工作を仕掛けてくる可能性

ウクライナが切望してきたアメリカによるパトリオットミサイルの追加供与は、イスラエルに優先的に行われるようですが、イスラエルの防空体制を支えるIron Domeのカギとなるパトリオットミサイルの供与が滞るような事態になった場合には、イスラエルの防衛力にも大きな変化が訪れることになるかもしれません。

そうなった際に注意すべきがイランとトルコ、そしてアラブ諸国の動向です。

イランについてはあえて言うまでもないかと思いますが、トルコについては中東地域におけるイスラエルとの対峙とは別に、キプロス沖の東地中海における天然ガス田の開発権および周辺地域の領有権を巡って長年イスラエルと係争中であり、先述の著しい防衛力と攻撃力の強化と合わせ、何らかの揺さぶりをイスラエルに対してかけてくる可能性は、これまでいろいろと耳にしている内容をベースにすると、大いにありえると考えます。

サウジアラビア王国を中心とするアラブ諸国については、数カ国はイスラエルとの間にアブラハム合意が存在するものの(サウジアラビア王国はトランプ大統領からの再三の依頼をスルーしています)、2023年10月7日以降、パレスチナ人のみならず、シリア、レバノン、そしてイランなどに牙をむくイスラエルの姿勢を「ついに本性を現した」と一気に警戒を強めており、アメリカが今後イスラエルから距離を置くような様子を見せた場合には、アラブ諸国が一体となってイスラエルに戦いを挑む可能性が高まります。

そしてその輪には、ほぼ間違いなくイランが加わり、これまでとは全く違ったレベルの戦闘を目の当たりにすることになるかもしれません(ただし、トルコは恐らくこの戦いには直接的には加わらないと個人的には考えていますが、その時のトルコのリーダーがエルドアン大統領でなかった場合には、どうなるか私には全く予測がつきません)。

そしてその中東諸国とイラン、トルコの背後には、すでにすべてと戦略的パートナーシップ協定を結んでいる中国とロシアの存在があり、中ロともにそれぞれの“戦い”から目をそらしたいという意図もあり、中東地域における緊張が高まり、欧州とアメリカを中東地域に縛り付けておくために何らかの工作をしてくる可能性は否定できません。

実際にイランのアラグチ外相は頻繁にモスクワを訪れて、イラン核協議への対応やイスラエルからの脅威やアメリカによる核施設への爆撃などへの対応を話し合っていますし、中国の王毅外相はもちろん、他の重鎮も報じられていないものも含め、イランや中東各国の政府との協議を様々な国際会議などの場を利用して実施し、着々と連携を深めています。

中東についてはトランプ大統領も最初の訪問地として選び、AIセンターの設置・投資も含む超大型案件で合意してコミットする姿勢を明確にしていますが、中東各国がアメリカを重視するのは、かつてのようなエネルギー輸出先や防衛システムの提供者としてよりは、投資と経済的な連携、そして最先端技術の移転というpurely economicな観点が主要になっています(余談ですが、ゆえに、UAEなどがイスラエルと締結したアブラハム合意も、中東各国からするとpurely economicな繋がりで、最先端技術の提供というのが目的となっていると考えられるため、イスラエルに対するシンパシーは元々ないと言っていいと思います)。

防衛・安全保障の観点からは、中東諸国は中ロとのつながりを強化すると同時に、独自防衛の体制構築も急いでおり、そこに今後、トルコが絡んでくることになりそうです。

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