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ミツカン炎上ポストに謝罪を強いた日本とは真逆。米国で“リベラルとともに敗北”した「キャンセルカルチャー」の現状

東京オリンピック開会式を巡る小山田圭吾氏の降板騒動で、日本でも認知度が上がったキャンセルカルチャー(社会的に好ましくない言動をSNSなどで集中的に批判し、不買運動やボイコットを通じて、その人物や組織を社会的に排除・制裁する動き)という概念。しかしその本家とも言えるアメリカでは、大きな転換が起きているようです。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、ミツカンとアメリカのジーンズメーカーの「大炎上」への対応を比較分析。その上で、キャンセルカルチャーの現在地と今後について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第3371回「キャンセルカルチャーの敗北──ポリコレに逆襲するアメリカ」

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アメリカで始まったポリコレへの逆襲。「敗北」したキャンセルカルチャー

「そうめん論争」が飛び火。世にも奇妙なミツカン炎上謝罪事件

最近、エックスで食品メーカーのミツカンが炎上し、謝罪に追い込まれるという事件があった。発端はこのポストである。

冷やし中華なんてこれだけでも充分美味しいです
(2023年8月13日 ミツカン公式ポスト)

X(@【公式】ミツカン)2025年8月13日のポスト。すでに削除済み

見ればわかるが、ミツカンの『冷やし中華のつゆ』の宣伝だ。暑くて夏バテ気味で料理するのも面倒な時は、つゆだけでも食べられますよ、そのくらいミツカンのつゆは美味しくて便利ですよというアピールである。

これじゃ炭水化物オンリーで、血糖値が跳ね上がって食後に眠くなるし、体に悪いから、具がないと食べられないなとは思うが、学生の頃や借金苦時代を思い出せば、冷蔵庫に食材も入っておらず、とりあえず空腹が満たされるならいいやという人がたくさんいるのもわかる。ご飯にふりかけだけで済ませるのと一緒だろう。

最近は、レシピ本やレシピ動画も「3分でできる」「手間なしで十分うまい」などが売りの《ズボラ飯》系がすごく多い。毎日忙しすぎて料理に手間がかけられなかったり、一人暮らしで料理しない・できない・するモチベーションが保てなかったりする人も多いからだ。

つまり、しっかり時流に乗った『冷やし中華のつゆ』の売り込みだったのだが──これが大炎上。

しかも発火点は「血糖値が」「栄養バランスが」という部分ではなく、「家事を軽視するな!」「女性蔑視だ!」というものだったので驚いた。

実はこの時期、エックスでは「そうめんを作るのは重労働か?」という珍妙な言い争いが起きていた。

ものすごくくだらない話だが、「そうめんぐらい簡単だ」と言いたい人々と、「そうめんは大変なんだ」と言いたい人々が対立し、そこへ、夫への鬱憤を抱えた女性たちが次々と愚痴を投稿したり、男尊女卑の感覚で「家事なんか楽勝だろ」と言いたがる層がなだれ込んだりして、大論争に発展。

その渦中に、事情を知らなかったミツカンが、もともと準備していたCM企画で「冷やし中華なんてこれだけでも充分」と投稿したため、たちまちターゲットになってしまったのだ。

「“冷やし中華なんて”とはなんだ!主婦労働をバカにしているのか!」
「とんでもないミソジニー企業」
「今までミツカン愛用していたけど、もう買わない」
「女性を敵に回す企業は愚か」

火だるまになったミツカンは、「不快な思いをさせてしまいました」「深く反省しています」と公式謝罪するハメに追い込まれたのだった……。

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アメリカでは「反ポリコレCM」が特大ホームランに

一方アメリカでは、ちょっとした言葉の使い方によって、企業のCMが大炎上し、マスコミを巻き込んでの大議論にまで発展したものの、日本とはまったく真逆の結末を迎えた。

発端は、今年7月23日に発表された、ファッションブランド「アメリカンイーグル」の広告だ。米国のドラマで人気急上昇中の女優シドニー・スウィーニーが起用された。

興味のある人はYoutubeで見てもらいたいが、肌を露出して横たわるシドニー・スウィーニーの下腹部から映像がはじまって、乳まわり、肩まわりへとカメラでなめていくエロい映像で、セリフはこうだ。

Genes are passed down from parents to offspring, often determining traits like hair color, personality and even eye color…My jeans are blue.

(遺伝子は親から子へと受け継がれる。髪の色や性格、目の色も遺伝子によって決められるの。 私のジーンズは青いのよ)

「Genes(遺伝子)」と「Jeans(ジーンズ)」をかけたダジャレだ。

同じシリーズで、爆乳の谷間へとカメラが異様にアップしていくものや、爆乳からお尻まで全身をぐりぐりなめまわすもの、ジーンズをへその下へずり下げて「これ、私のおしりが良く見えていいわ」と挑発的な笑みを浮かべるものなどシリーズがいくつもある。

いずれも、最後に男性の声で「SYDNEY SWEENEY HAS GREAT JEANS(シドニー・スウィーニーは素晴らしいジーンズを持っている)」というコピーが入る。

日本人からすれば、「ほう、アメリカのCMは攻めとりますなあ」など言いながら、黙ってガン見しまくって終わる話だと思うが、アメリカでは、この最後のコピー「SYDNEY SWEENEY HAS GREAT JEANS」が、「GREAT GENES(優れた遺伝子)」とも受け取れるように構成されていることが問題視された。

金髪に青い目の白人女優を起用して、遺伝子について説明するセリフを言ったあとに、「優れた遺伝子を持っている」と聞こえるコピーを放ったため、「白人至上主義の含みがある」「金髪碧眼のアーリア人を人類の頂点としたナチスの優生学を想起させる」と受け取られたのだ。

このCMは、とてつもない大炎上を巻き起こした。

一夜のうちに、エックス、インスタグラム、ティックトック、フェイスブック、ユーチューブとありとあらゆるSNSで拡散され、マスコミにも飛び火。 全国ネットの報道番組などからも総叩きに見舞われる。

これまでの「キャンセルカルチャー」の流れなら、CMは即刻中止、出稿元のアメリカンイーグルに対するデモに不買運動、出演したシドニー・スウィーニーも姿を消すまで叩き尽くされると予想されるところだ。

しかし、現実は逆だった。

ジーンズは爆発的に売れて、品切れ。 株価は一晩で17%上昇し、時価総額は500億円アップ。 シドニー・スウィーニーも大注目されることになり、特大ホームランのコマーシャルとなったのである。

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アメリカンイーグルは一切謝罪なし。キャンセルカルチャーの敗北

アメリカンイーグルは、一切謝罪しなかった。

それどころか、「私たちは、これからも、誰もが自分らしく自信を持ってアメリカンイーグルのジーンズをはく姿をたたえ続けます。素晴らしいジーンズは誰にでも似合うのです」という声明文を発表。

もちろん批判もあったが、この企業態度がさらに人気を得て、ブランドの公式インスタグラムのフォロワーは15万人近く増加したらしい。

メディアは、シドニー・スウィーニーについて調べ上げ、共和党員として登録されていた事実が報道されたり、過去のSNS動画から、射撃場で銃を撃つ姿が掘り起こされたりもした。

実際、一連のCMシリーズには、1960年代のアメリカを一世風靡したフォード車が登場するなど、「古き良き時代の俺たちと、金髪碧眼の白人美女」という共和党的なイメージを想起させるものもある。

トランプ大統領のスローガン「MAGA(Make America Great Again :アメリカを再び偉大な国に)」に寄せた部分があるのだ。

こうなると、トランプ大統領は大喜びである。

記者会見で「彼女の広告が大好きだ!」「シドニー・スウィーニーが共和党員なら、彼女の広告は素晴らしいと思う」とご機嫌で語ると、ホワイトハウスの公式SNSで「シドニー・スウィーニーの広告、もう見た~?」と後押しするポストまで投下。

https://x.com/WhiteHouse/status/1952885899093586368/photo/1

ほかにも、アメリカの著名人たちの大喜びの発言を紹介しよう。

ヴァンス副大統領は、論争を「共和党vs民主党」に見立てて、インタビューで皮肉たっぷりにこう語った。

「民主党が学んだ教訓は、『シドニー・スウィーニーが美しいと思った人を、ナチス呼ばわりして攻撃する』ということらしいね」

「民主党員の多くは、アメリカの基本的な生活に対する“敵意”を軸にしているんだ。だから、可愛い女の子がジーンズの広告に出ると、パニックに陥らずにはいられないんだよ」

ホワイトハウス報道官のスティーブ・チャンは、広告に対する批判を、「キャンセルカルチャーの暴走」と呼び、こう述べている。

「この歪んだ、愚かで鈍感なリベラルな考え方こそが、2024年に、アメリカ人があのような投票をした大きな理由だ。彼らは、このデタラメにうんざりしているのだ」

自身も金髪碧眼の白人女性である政治評論家のメーガン・ケリーは、自身の番組にて強い調子でこう発言。

「白人で金髪、青い瞳の人を祝うことすら許されないような、くだらない状況にはもううんざりなんです。過去5年間、そういう特徴を持つ人が部屋に入るときには、申し訳なさそうにしなければなりませんでした。この広告は、そうしたことをやめるという最終宣言のようなもの。それは、私たちが優れているという意味ではなく、他の人種や髪色、瞳の色の人より劣っているわけではないということです」

抑え込まれていた感情が、反動とともに一気に噴出している。ポリコレに対する逆襲と言ってもいいだろう。アメリカは、リベラルの敗北とともに、キャンセルカルチャーも敗北したというわけだ。

以前は、ジーンズをはく「反抗」の象徴と言えば、リベラルの若者だったかもしれないが、現在のアメリカは、そのリベラルに抑えつけられていた共和党派の若者こそが、「反抗」を見せる存在として勢いを持っている。

アメリカンイーグルは、その新たな潮流を的確にキャッチして、大胆な広告を展開し、見事に大成功したということだろう。シドニー・スウィーニーは、「意識の高い」リベラル系の広告を撲滅してくれたと称賛する声もあるという。

企業が即座に謝罪し、ひたすら萎縮する姿を見せるばかりの日本だが、水面下では着実に価値観の変化が起こりつつある。いつかこうした「逆襲」への転換が訪れるだろうか?(その2に続きます)

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(メルマガ『小林よしのりライジング』2025年8月26日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)

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