中国の最高権力者も無視できぬ人民のパワーと高齢化の現実
中国政治に対する日本人の大きな誤解は、トップの権力を過剰評価するあまり人民の「パワー」を軽視することだ。だが、トップに立ったときに味わう万能感よりも、その責任から来るプレッシャーの方が大きいことは、習近平が長い休みや大掛かりな地方視察を行うたびに、貧困地区を訪れて人民と触れ合う姿を報じさせることからも想像できる。
徹底して政敵を追い落とし、強大な権力を手にした毛沢東でさえ、「中国の農民を本気で怒らせたら誰も止められない」と、人民パワーの凄まじさに触れている。
胡錦涛も同じだ。
アメリカのブッシュ（ジュニア）大統領と会談した際、ブッシュから「考え始めたら寝られなくなることはあるか」と訊ねられ、少しの沈黙の後に「この国の人々を食べさせられなくなったら…、と考えたら寝られなくなる」と答えたのは象徴的だ。
つまり、人民を満足に食わせられないのに、その先にあるリーダーの不老長寿など、たとえ技術が長足の進歩を遂げたとしても夢のまた夢だ。
実際、医学の進歩が本当に「150歳まで生きる」という人間の願望に応えられるか、といえばこれも怪しいのだ。
今年4月22日米誌『MITテクノロジーレビュー』は、特集記事「長寿クリニックは儲からない？ 世界調査で分かった意外な実態」で、既存の多くの長寿クリニックが今後も長寿医学の発展を目指すか否かは不透明、と疑問を投げかけた。
最大の問題はクリニックが思うように利益を上げられていないことだ。
儲からなければ資金は集まらず、資金が集まらなければ研究は進まない。それが世の常で、長寿クリニックも例外ではないというわけだ。
だが現実的な話に戻せば、科学の進歩が政治家や一部の富裕層の持つ「不老の夢」をかなえられなくとも、国民の寿命は確実に伸び続けてゆくと考えられているのだ。
つまり、指導者はどうしても少子高齢化の問題を避けて通ることはできない。
事実、中国はこの一年、経済発展の新たな駆動力として「銀髪経済」というスローガンを大音声で繰り返し唱えてきた。
その一方で、医療費の負担軽減のために健康増進を呼び掛け、老人に手厚い環境を整えている。
中国のあちこちの都市にある公園には、必ず老人の健康器具が備え付けられているのは、分かりやすい社会の変化だ。
寝ても覚めても高齢化。実際のところ指導者の頭を占領しているのは、そんなことなのかもしれない。
（『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年9月21日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい）
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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト
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