自身の「立ち位置」を見失ってしまったゼレンスキー
ユーラシア大陸ではロシアに次ぐ第2位の軍事大国となり、ウクライナ国民の対ロ嫌悪感とも相まって士気は高く、ロシア軍の侵攻を停滞させる働きをしていますが、戦争の長期化と犠牲の拡大、いつ終わるかわからないという心情が士気を下げ、武器も底をつき始めて、今、ウクライナ軍は生存に向けた正念場に立っているという状況に陥っていると分析できます。
そのような中、世界を飛び回って支援の拡大と継続を懇願するゼレンスキー大統領ですが、戦争の長期化と先の見えない状況は、支援国内の支援疲れとウクライナ離れを引き起こし、口先だけの支援はもらっても、実際には何もこないという四面楚歌の状況に陥っています。
頼みのアメリカのトランプ大統領は、対ウクライナ観を頻繁に変え、予測不能ですし、何よりもアメリカ軍をロシア・ウクライナ戦争に直接的に巻き込ませないことを最優先とするため、いかなる脅しも空手形になり、まさにロシアのプーチン大統領の思うつぼという状況になっていると見ています。
そのような中、焦りでしょうか?それともプーチン大統領やトランプ大統領からの煽りへの答えでしょうか?
ゼレンスキー大統領は戦時リーダーの輝かしいイメージを失い、自分の立ち位置を見失ってしまったように見えます。
すでに大統領選を先延ばしにすることで、法的には大統領ではないはずの自らに権力を集中させるために国内法の改編を試み、反ゼレンスキー勢力を抑え込みにかかっていますが、これぞ政権の・権力者の末期症状に出てくる特徴といえ、一度動き出した反ゼレンスキーの動きと国内分断の波は強まるばかりです。
軍のトップを挿げ替えたり、地方の知事にスパイ容疑をかけて更迭したり、自らにかかる汚職疑惑を調査するはずの独立検察機構を活動停止に追い込もうとしたり、そして歴史的な中央政府とキーウ市長との権力闘争を再燃させたりして、自身の保身を、ウクライナの安定よりも優先するように見える状況に陥っています。
自身は最近「次の大統領選には出馬しない」と繰り返し公言しているものの、その“次回の大統領選”が実施される見込みはしばらくなく、「今は戦時であり、母国の存亡の危機ゆえ、政治の話をするべき時ではない」とも発言して、結果として権力の座に居座り続けています。
先週号で問いとして挙げた「もしかしたらウクライナが有利か?」という分析は、内政的には挙国一致体制が確立しており、「ロシアの企てを挫く」という目的の下、徹底抗戦を続け、それに欧米諸国が挙って支援する場合には…というBig Ifが背後に存在します。
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しかし、実情はそのシナリオ・条件からは程遠く、ロシアの圧勝と言う状況でもありませんが、ウクライナのエネルギーも気力も、戦意も戦闘能力も日に日に削がれ、そこに国内での権力闘争と不協和音が加わって、自力では恐らく立っていられない状況がそう遠くないうちに現れることになると予想します。
ウクライナの崩壊を食い止める術は、アメリカはもちろん、欧州各国からの支援の継続と拡大により、ロシアの侵攻を止め、ロシア軍を押し返したうえで、ウクライナの軍事力を高め、政治的には欧米圏に組み込むか、縛り付けるような体制にしたうえで、ウクライナをユーラシア大陸最大の対ロシア軍事要塞に作り上げることしかないのですが、その覚悟が欧州各国にあるのかは非常に不透明です。
また仮にその覚悟があったとしても、対ロ抑止力として十分な体制と軍備を築き上げるには、早くても3年から4年はかかると思われ、それまでロシアからの執拗な攻撃にウクライナが耐えきれるかは、大きな疑問です(ただし、耐えきって欧州各国による集団安全保障体制にウクライナが組み込まれ、対ロ軍事要塞としてそびえることが出来れば、ロシアの領土的な企ては挫かれることになりますが、果たしてどうでしょうか?)。
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