プーチン、トランプ、ゼレンスキー。戦争を「終わらせたくない」独裁者たちによる“暗黙の共犯関係”

 

国内外におけるプーチン評を爆上げしたトランプとの会談

プロパガンダ戦略を継続することは既定路線として不変ですが、ここで切ったカードがプーチン大統領とトランプ大統領の首脳会談実施です。

すでにご存じのように、この首脳会談(@アンカレッジ)は、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向けて何も成果を生み出しませんでしたが、国際社会から総スカンを食らい、発言力と影響力に陰りが見えたプーチン大統領を、再度、表舞台に押し上げ、さらには国際情勢のメインキャラクター・メインプレイヤーの座に復帰させました。

萎縮することなく、あのトランプ大統領と対等に渡り合っただけでなく、何もアメリカに与えなかったというイメージは、国内外におけるプーチン大統領評を爆上げし、その結果が、9月の中国・北京における対日戦争記念式典でのVIP待遇であり、習近平国家主席や北朝鮮の金正恩氏との会談をニュースで取り上げさせ、習近平国家主席と共に、国家主義経済陣営の拡大を世界にアピールすることに成功しました(実際には中国の力を借りた演出ですが、ロシア国内と親ロシア派の支持基盤を固めることには十分すぎる成果となりました)。

ロシアは、自らが戦争の当事者であるにもかかわらず、イスラエルによる蛮行を非難して、仲介の労を申し出てみたり、アフリカにおける紛争の解決のために尽力する姿勢を見せたりして、プーチン大統領にICCからの逮捕状が出ていることなど忘れさせるほど、ICCの処置をあざ笑うかのように、国際的な案件に影響力を行使し、ロシアの復活を印象付けています。

しかし、この取り戻したトレンドをキープするためには、ウクライナとの戦いが続いていることが必須で、“負けない”状況を維持しつつ長期化させることと、ロシアはウクライナと戦っている最中でも周辺国にも国際案件にも手を出すことを証明しないといけません。

後者に関する典型的な動きが、無人ドローン・囮ドローンをNATO加盟国領空に侵犯させ、「その気になればいつでも行ける」という脅しを加えると同時に、相手の防空能力を消耗させるという行為です。

実際に被害は出ていないのですが、東欧やバルト三国のNATO加盟国をon alertにするには十分すぎるほどの示威行為で、そうは言わないにしても、「ウクライナが落ち着いたら、次はお前だ」的な無言のメッセージを送り、ロシアの影響力の存在を示すことに成功しています。

そして何よりも、これらの威嚇に対してNATOは、口は出しても行動は起こさないという姿勢をとったことで、加盟国間での分裂がじわりじわりと起きており、今後、ロシアまたはベラルーシが何らかの軍事行動を取った際にも、NATOが内部分裂のため即時反応ができない状況に持って行こうとする戦略が見事にはまっていると考えられます。

そしてロシアと言えば、核兵器使用の脅威の提示です。

実際にロシアがウクライナに対して戦術核を用いて攻撃に及ぶことはあり得ませんが(自国への攻撃とみなすため)、いつでも使える状況に置き、NATOがウクライナの頭を越えてロシアを攻撃したり、ウクライナがロシアを攻撃することを容認したりした場合には、容赦なく核兵器を使用する可能性があるという「核使用に対するドクトリン」を改訂して、提示することで、“トランプ大統領並みに”ロシアは何をするかわからないというお化けのような脅威を国際社会、特に欧州諸国に植え付け、印象付けることに成功していると言えます。

これらの戦略をロシアのプレゼンスと“大義”のために用い続けるためには、プーチン大統領とロシアは、多大な犠牲を強いられることになっても、ウクライナとの戦争が続いていること、長期化していることが必須で、時折、リップサービスのように停戦やゼレンスキー大統領との首脳会談の可能性に言及していても、実際に戦争を終結させるつもりはないと考えてよいでしょう。

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