米国だけが果たせる役割を中途半端なものにしたトランプ
もしプーチン大統領とロシアが対ウクライナ停戦に舵を切ることがあるとしたら、【ゼレンスキー大統領が国内で失脚し、戦わずともウクライナが親ロシアに替わり、実質上ロシアの勢力圏に変わった場合】や、【トランプ大統領がゼレンスキー大統領と欧州に提示する“ロシア案の受け入れ”(ドネツク州など2州全域をロシアに組み込むことに合意するなど)が成立し、プーチン大統領が国内外に“勝利”を宣言できる環境が整った場合】、または【NATOが内部分裂を引き起こし、NATO内からロシアに寝返るような国が出てきて、ドミノ倒しが引き起こされるような場合】が考えられるのではないかと思います。
これらは全て多角的な分析に基づくシナリオで、調停グループやMultilateral Mediation Initiative、各国の戦略研究所などを交えて対応を考えているものの一部ですので、決して私の妄想に基づく絵空事ではないことを申し添えておきます。
最後にトランプ大統領とアメリカです。
正直、予測不可能で、どう見ても長期的な戦略を持っているようには見えないのですが、次々と国際的な注目を集める紛争に首を突っ込み、仲介の労を担うそぶりを見せて得点稼ぎに勤しんでいますが、交渉結果や仲介の内容などの実行を保証し、違反した場合の罰を加える軍事力の存在を、自ら取り下げることで、本来、アメリカ“だけ”が果たせる役割を中途半端なものにしてしまっています。
ウクライナの停戦を叶えたいのであれば、アメリカ軍の派遣を真っ向から否定してはならないでしょうし(可能性として常に言及しておくべきと考えます)、「これは欧州の問題」という姿勢を鮮明にして、「あとはよろしく」では、誰もまともにアメリカの“脅威”を信じ込むことはありません。
つまり、交渉の専門家としては、行動心理の観点からも、トランプ大統領の紛争調停における動きややり取りは、自ら影響力を提言させることにつながり、結果として、戦況を至る所でややこしいものにしていると思われます。
しかし、場当たり的に言うことを聞かない国には関税措置をチラつかせて脅し、自ら同盟国との結束を崩してしまっているトランプ大統領としては、自らの存在意義と影響力を誇示するためには、人目を惹く戦争や紛争への関与が最も手っ取り早いと考えられるため、決して中立とは言えないにも関わらず、仲介に乗り出し注目をさらっていきます。
ただ本気でコミットするつもりがないことも見え見えですが、これは戦争が終われば自らの成果としてアピールできるが、仮にしなくても、戦争が長引き、アメリカが中途半端な形でも影響力を行使し、世間の目を釘付けにすることで、自らの存在をアピールできるという、トランプ版ウィンウィンの構図が出来ているため、いろいろな情報や話を総合的に見てみると、トランプ大統領が本気でコミットしてこれらの戦争を終わらせようというつもりはないのではないかと考えます。
一刻も早い停戦や戦争終結が望まれる中、その命運を握る国際社会におけるリーダーたちは、和平の実現による人類・地球への利益よりも、どうも自身の保身と権力の維持に目が向いている気がします。
唯一、あえてポジティブな要素があるとしたら、国際経済はすでにそのことに気付き、戦争の影響や対立の不利益を織り込んだうえで、国際政治のどろどろした思惑からビジネスや経済をdecouple (切り離して)する仕組みを確立しつつあることでしょうか(私の根拠なき推測です)。
いろいろな話を聞き、協議をしてきたニューヨーク出張から戻り、いろいろと整理しながら、ため息をついています。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年10月24日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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