トランプ流「米国ファースト経済」の手法が使えない日本。高市首相が“モノづくりの空洞化”に苦しむ我が国で取り入れるべき「5つの視点」

 

アメリカに勝るとも劣らない日本の「空洞化した経済」

ストーリーとしては筋が通ります。ですが、問題は労働力です。スマホのような集積度の高い製品の場合も、あるいは自動車のような比較的大きな工業製品の場合も、現在では生産現場の主力はロボットとなっています。したがって、人間の仕事はスマホ製造の場合は、防護服に着替えてクリーンルームに入ることになります。そこで何十台いや何百台も並んだ洗濯機のようなロボットの中で、スマホが組み立てられるのを監視する業務になります。

監視というと語弊があり、要するにトラブルシューティング業務が主となります。何らかのエラーが出たら、そのエラーに対応するし、エラーの種類によっては下工程で不良が発見された場合には、工程の上の方を辿って問題を除去するわけです。

また状況によっては、不良品をピックアップするわけですが、相手が精密機器ですので場合によっては、高度な知識が必要になります。高度な知識が必要とされなくても、膨大なオペレーションマニュアルを繰って(といってもタブレットでしょうが)正しい対応をしなくてはなりません。

自動車産業の場合も同じような事情があります。いくら保守政権が環境問題を軽視し、EV化を妨害しようとしても、世界的なEV化が止まるわけではありません。多少はスローダウンするにしても、EV化は進みます。

そんな中で、自動車の製造を国内回帰させたとしても、単純化・標準化された組み上げ部品を合体させるなど製造工程は簡素化され、猛烈な勢いでロボット化が進むことになります。テスラの工場が既にそうですし、そこでは人間の業務は要員数は少ないながらも、一人一人のタスクは高度なものになります。

ですからこれは、いわゆる「忘られた白人たち」とか「取り残されたラストベルト」の雇用対策ということにはならないと思います。では、全く無意味かというと、そうではないと考えられます。ここ数ヶ月の間に、恐らくはAIの実用化の影響で急速に悪化したアメリカの「初級知的労働市場」の労働力の受け皿になる可能性はあります。

つまり当初は、グローバリズムに最適化したエリートへの反感という、やや邪道な政治的動機から動き出した政策ですが、もしかしたら結果オーライ的な効果を生むかもしれないわけです。

さて、ここからが本論なのですが、このように「空洞化した経済」ということでは、日本の場合はアメリカに勝るとも劣らないわけで、多くの産業が国外流出して空洞化しています。

例えば、自動車産業の場合ですが、日本に残っているのは一部の最終組立と、設計、研究開発と管理部門で、例えばエンジンなどの「複雑な大型部品の組み立て」はほとんどが中国に集中しています。また電装部品なども中国です。そして、最終組立の工場も、各消費地における雇用確保をしないと怒られるので、北米にしても欧州にしても現地生産になっています。

またエレクトロニクスの関連については、日本の場合は消費者向けの弱電は手間が面倒なのでどんどんビジネスを丸々外資に売却中です。残っている部分も、製造は国外でというのが主流です。日本のお家芸であった光学機器なども、例えばキャノンは海外工場新設というよりは、生産委託の拡大を進めていますし、ニコンなどはかなりの高付加価値製品についてもタイで生産していたりします。

衣料品に至っては、とにかくファストファッション全盛の中で、バングラ、ミャンマー、エジプトなどに生産拠点を展開する流れになっています。そのようなモノづくりの空洞化というのは、様々な角度から日本の国内経済を縮小させる要因になっています。まず、海外で生産すると、生産に必要な人件費は国内に落ちません。工場を作って維持するための設備投資も現地にカネが落ちます。

ですから、日本のGDPには大なり小なりマイナスになります。ですが、各企業の観点からは海外法人の売上も利益も、本社に連結決算されます。ですから、企業経営の観点からは「より人件費が安く、より効率の良い」場所に生産拠点を移して行ったほうが、業績が良くなるわけです。

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