止めるべき国が推進する「観光立国」などというデタラメ
3つ目には、輸送インフラの問題があります。仮に、日本国内に製造業を回帰させることができたとして、製造業の場合は「物理的なモノの輸送」を伴います。その場合のインフラは、昭和の時代のようには整っていません。鉄道貨物は限定的なサービス提供しかできていませんし、主力のトラック輸送は運転手不足で危機的な状況にあります。かといって、自動運転が戦力になるのはもう少し先ということもあります。
4つ目ですが、エネルギーの問題があります。日本という国は、潜在的に電力不足という問題を抱えています。この問題は最先端の製造業には大きな障害になります。例えば半導体にしても、先端光学産業にしても、あるいはスマホなど集積度の高い機器のロボット生産にしても、巨大な電力を必要としますし、何よりも生産途中の停電はタブーです。この点で十分なインフラが整わないと、先端産業の製造拠点には向かないということになります。
ということで、日本の場合は空洞化した製造業を国内回帰させるという選択肢は、ゼロではないにしても、政治運動にして大々的に進めるような条件はありません。
では、日本経済はこのままでいいのかというと、全くそうではありません。今のような大卒50%の高度教育国家でありながら、国が推進しているのが観光立国だなどというデタラメは止めるべきだと思います。勿論、観光業は立派な産業ですが、あくまでGDPに上乗せされるべきものであり、観光で立国というのは人材の活用方法の中では絶望的だからです。
勿論、日本が「日本ファースト」の経済に舵を切ることは必要だと思います。つまり多国籍企業が国外市場に依存し、更には国外投資を強める流れを断ち切って、「よりGDPを重視する経済」にシフトするのです。その場合に必要なのは、次のような観点です。
1)アメリカへのデジタル赤字を止血すべきです。これは一朝一夕にはできません。人材力、技術力、そして何よりも資金力が圧倒的に足りないからです。ですが、例えば欧州と連携して21世紀の独禁法体系を作るとか、サービスは受けるがセキュリティだけは確保するとか、あの手この手を使って行くべきです。
例えばですが、2次元キャラも絵文字も日本の発明ですが、マネタイズできていません。これから、3Dとかメタバースなどの時代になれば、自然環境の視覚表現だとか、音声、触覚表現などの領域も出てくるでしょうが、そうした変革の時代には、日本独特の自然観とか美意識のようなもので勝っていく勝負のポイントがあるはずです。
そうした場合に、平成期のようにイノベーターを潰すのではなく、日本としてしっかり経済にしていくという戦略、文明をしっかり確保する必要があると思います。知財戦略も、バカみたいなコンプラ自縛の迷路に入るのではなく、世界規模でのマネタイズができるような法体系、商慣習を生み出すべきです。
2)日本がアジアの金融センターになる可能性はまだ残っています。これだけ数字に強い国民を抱えているのですから、できないのがおかしいのです。とにかく「リスクを取らないリスクを理解」したうえで、「インフラとしての英語と会計、数学」の普及をしっかりすれば、少なくとも英国やシンガポールには負けないぐらいには戦えるはずです。
この点に関しては、マーガレット・サッチャーの手法を参考にしてもいいかもしれません。改革の前半は外資が入ってもいいので、その後で人が育ち、カネが回り始めたらジワジワ独自色を出すことは可能だと思います。
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