トランプ流「米国ファースト経済」の手法が使えない日本。高市首相が“モノづくりの空洞化”に苦しむ我が国で取り入れるべき「5つの視点」

 

大嘘でしかない「日本の強みは中小企業」などという言説

3)自動車が終わったら何もかもを失うというのではダメで、やはり宇宙航空をやるべきです。船舶は付加価値が取れないので、トランプ提案は現有の生産力でお付き合いできる程度にとどめ、とにかく宇宙航空です。その場合には、高市方式で軍需も視野に入れてもいいですが、それが技術の囲い込みになり官需依存になっては産業として立ち上がりません。素材などの基礎技術を含めて、軍需対応をする場合は、民生品産業を妨害しないことが大切です。

宇宙航空も、人材の要素が大きいので、多国間での協業もいいと思います。とにかくチマチマやるのではなく、最先端を追い続けないとダメだと思います。

4)コンピュータ、金融、宇宙航空に人を振り向けるために、とにかくSTEM教育への強化と、インフラとしての英語をしっかりすべきです。次世代だけでなく、現役世代の学び直しも、それこそ現役世代を「夜間大学院」に通わせるといった、伸びていく時代のシンガポールがやっていたような取り組みが必要です。

特にターゲットとすべきは、事務職です。現在の日本は高い教育水準をもった労働力を生産性の低い事務職として浪費しています。ここから、数百万単位、いや千万単位の労働力を、知的付加価値生産に回すのです。事務は自動化、標準化を徹底し、企業の管理部門は解体して現業と外注に持っていき、地方行政は広域化、標準化、省力化をするのです。

これだけ基礎力のある人口を持っているのですから、その人口にSTEMと英語の学び直しをしてもらい、一千万単位で事務職を技術職+専門職にアップデートするのです。ここまで人間の知的能力を浪費している社会は、このままでは滅亡しますが、そこをしっかり立て直すのです。

5)事務職から専門職へ人材をトランスフォームするだけでなく、企業のあり方も変えなくてはなりません。日本の強みは中小企業だとかいう言い方がありますが、あれは大嘘です。成長途上で、今は小さいが拡大の可能性があるというのならいいんですが、それ以外の中小企業というのは、オーナー経営者が低賃金労働力を使うことで成立するアンチ成長のモデルになっています。

規模の経済というのはあるので、10のビジネスについて1社ごとにオーナー経営者がいるのではなく、それが30まとまって300のビジネスになり、という流れが必要です。そこを優秀な経営陣がリードして拡大しつつ高い粗利益を出して、分配もするようにしなくては、経済は伸びません。

この点に関しては、どうも日本国内の経済関係者は言い出しにくい雰囲気があるようです。小西美術工藝社のアトキンソン氏がズバリ指摘したわけですが、今でも叩かれているのを見ると、政治と絡んだ「地方名望家」の執念を感じます。いずれにしても、資本の細い中小企業に素材や部品のノウハウをバラバラに置いておくのは、経済安全保障の上でも良くないので、規模と成長の仕掛けへと束ねていくことは必要です。

いずれにしても、本当に日本の経済を憂えて、成長を志向するのであれば、まずトランプ式の「製造業回帰」というチョイスはなさそうです。そうではなくて、産業構造を高付加価値知的産業に転換すること、その作業を通じて高度に教育されて基礎力を持つ人々の能力が、21世紀の世界に適応してその実力を発揮することが必要です。

そのような改革の流れを「新自由主義」だ、などという苔むした言葉で叩く「保守」というのは、同じ保守でも明治時代を切り開いた日本人ではなく、寛政の改革をお手本にしようとしているのかもしれません。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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