トルコの復権を巧みに演出するエルドアンの思惑
11月20日にウィトコフ特使とゼレンスキー大統領が直接会い、本提案の詳細について協議する予定だったようですが、ゼレンスキー大統領は代わりにトルコに赴き、エルドアン大統領に対して、停戦交渉再開のお膳立てをしてくれるように依頼しているようですが、エルドアン大統領は「ロシアと話し合う用意は常にあるが、停戦交渉を軌道に乗せ、受け入れ可能な解決策を見出すには、アメリカの関与は必須である」と述べ、ウクライナからの要請に100%応えることはせず、少しプロセスから距離を置きつつ、トルコ政府と自身の立ち位置を慎重に見極めようとしているように見えます。
エルドアン大統領がゼレンスキー大統領からの要請に100%乗っからなかったのには、最近、トランプ大統領との間で関係を修復したことと、トルコの復権のために、アメリカに恩を売るための材料を探そうとしていることが背後にあったものと考えられます。
その恩の内容は、中東和平協議におけるトルコの影響力の拡大であり、トランプ大統領が描くガザの復興案と、中東和平の実現において、トルコが大規模な支援とバックアップを行うためのwindowを確保すべく、トランプ大統領にネタニエフ首相を説得させ、実質的に中東におけるパワーバランスの核を担いたいという思惑が見え隠れしています。
そのために米ロ案を蹴ってアンカラにやってきたゼレンスキー大統領を歓迎しつつも、ゼレンスキー大統領に対してアメリカの意向を無碍に断るべきではないという助言を行い、かつロシアの“前向きの姿勢”を無駄にすべきでないという考えも添えて、トランプ大統領をロシア・ウクライナ戦争の終結に向けたプロセスに縛り付けておく術を説き、ここではゼレンスキー大統領からトランプ大統領に対して「和平プロセスの実施をトルコの仲介で行いたい」という依頼をさせることで、ロシア・ウクライナ戦争への影響力と共に、中東和平プロセスを主導する中心円にトルコを置くことを画策しているのだと読んでいます。
トルコはこのところ、イランとの関係修復にも励んでいますし、ロシア・中国との関係も良好で、かつウクライナとも直接話すことができるという稀有な立ち位置にいますが、今後、トランプ大統領のアメリカが和平実現という難題を解決するための様々な糸をトルコが一手に握り、かつアラブ諸国との関係強化を通じて、イスラエルとのパワーバランスを均衡化させ、中東地域におけるイスラエルの一強化に一石を投じようとしています。
イスラエルの企みを挫くには、核兵器の保有・実戦配備さえ選択肢に入れているようですが、その実現のためには、トルコがNATOの一員であることも原因としてありますが、アメリカの支持が不可欠で、その引き換えにイランに核開発を諦めさせ、サウジアラビア王国やUAEの原子力への傾倒を平和利用に限定させる代わりに、NATO加盟国としてのトルコが中東地域における核兵器のバランサーとして中東・アラブ側に立ち、イスラエルの暴発を抑え、かつアメリカと密接に協力しつつ、イランに対する懸念も払しょくするというグランドデザインを描いているように思われます(私なりの勝手な分析ですが)。
このどっちつかずで、大所高所から動くエルドアン大統領の流儀は、とてもウィトコフ特使にはできない芸当で、明らかにロシア寄り・イスラエル寄りの印象をつけてしまったウィトコフ特使とは違って、トルコ(エルドアン大統領)は、イスラエルは許さないという姿勢以外は、みんなの味方というイメージ戦略を推し進め、巧みにトルコの復権を演出しています。
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