ついにアメリカと直接的に対峙せざるを得なくなる中国
ただこのエルドアン大統領の演出を成功させるためには、アメリカとの強いパイプが必要で、かつトランプ大統領に「トルコはアメリカの味方」というイメージを植え付け、かつプーチン大統領にも、ゼレンスキー大統領にも「いざとなったらトルコを間に立てるべき」というイメージを持たせることが必要で、かつあまり積極的に動くことができないサウジアラビア王国やUAEの意を汲む配慮も見せながらアラブ諸国とイスラム教国の意向を“代表する”立ち位置と信頼を得る必要があります。
イランとの良好な関係、アゼルバイジャンの後ろ盾としての地位の確立、スタン系の国々に広がるトルコ系の影響力、中ロとトルコで形成する中央アジアにおける力のトライアングルを通じた安定の確保など、様々な側面に対して気配りが必要ですが、これまでのところ、優秀なスタッフ・人材にも恵まれて、トルコは着実に、自国の影響力を高めつつ、難解な国際情勢を左右できる立ち位置を確保しようとしているように見えます(そしてそれに気づいているイスラエルのネタニエフ首相は、自身への激しい非難も理由としてはあるものの、エルドアン大統領を警戒し、中東地域におけるトルコの影響力の拡大を嫌い、アメリカからの叱責を覚悟の上、アメリカ提出の安保理決議を事実上、拒絶する賭けに出ているように思われます)。
今、進んでいる様々なシナリオはこのように描くことができるのではないかと考えます。
ロシアは取引に見せかけて領土と影響力の固定化を狙うことで、ウクライナ戦争における負けを無くし、多くの犠牲を払ってでもウクライナによる挑戦を退け、ウクライナの力を削ぐことで、ロシアの国家安全保障を守り抜いたという成果を得ようとしている。
アメリカは取引に見せかけてウクライナにおける負担の軽減、さらには排除を図りつつ、ロシアに恩を売っておくことで影響力は確保し、その間に国内に集中する時間とエネルギーを獲得する。
そのために、まずロシアと露骨なディール・メイキングを行っているように見せかけて、トルコを通じて“アメリカの影響力が及ぶ”停戦協議のプロセスを走らせつつ、なかなか言うことを聞かないネタニエフ首相への圧力として、エルドアン大統領とトルコを用いて、イスラエルの暴走を止めつつ、アラブ諸国の懸念を勘案しているように見せて、アメリカを再度、中東地域の泥沼から救い出し、比較的成果を見せやすい中国との対峙にシフトする土台をつくる。
ここで損をするのは、傷つき血を流して国家主権の防衛のために約4年間戦ってきたにも関わらず突如既成事実化された降伏を強いられるウクライナと、国際情勢におけるパワーゲームの舞台から蚊帳の外に置かれ、ウクライナの戦後復興の重荷を担わされる欧州各国ということになるのではないかと考えます。
そして、場合によっては、ついにアメリカと直接的に対峙せざるを得ない中国も割を食うことになるのだと考えます。
本気度合いは分かりませんが、トランプ大統領は自らの任期中に中国との対峙にピリオドを打ちたいと考えているようで、その場合、台湾および東シナ海における中国の行いにケチをつけて、限定的だと思われますが、何らかの行動を、中国を相手に始めることが予想されます。
特に2026年にはアジア太平洋地域における軍事力では米国の軍事力を凌駕すると言われている中国の伸長を食い止めるために、何らかの口実をつけて中国軍の伸長を止めるべく介入してくる可能性が高まっているように見えます。
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