中国から「認知戦」を仕掛けられている可能性も
存立危機事態について、「台湾有事も該当し得る」とした発言について、当初中国政府はそこまで問題視していなかったとされます。本件がエスカレートしたきっかけは、高市氏の答弁を受けて、中国の薛剣(セツケン)駐大阪総領事がXに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」と投稿し、それに対して自民党内部から薛剣総領事の国外退去を求める声が上がったり、外務省が中国大使を呼んで抗議したりしてからとされます。
もちろん、このような暴言に対して日本政府は毅然とした対応をすべきであり、高市氏が多少踏み込んだ発言をしたとしても、既に発言してしまった以上、その発言を撤回したりはすべきでないと思います。
ただ、ここにもまさに前述した高市氏特有の危うさが如実に表れたと感じています。ある意味、野党議員からの毎度お決まりの儀式のような質問に対して、従来の無難な政府答弁で返しておけば十分だったところに、自分を良くみせようと背伸びするいつもの癖が出てつい余計なことを言ってしまったのだと思います。
常に国益を意識していれば、先日、せっかくAPECで習近平とも対面して「戦略的互恵関係」や「建設的かつ安定的な関係」を確認しあった直後に、あえて中国を刺激するようなことを言う必要などどこにもありませんでした。中国が、「香港問題」「台湾問題」「ウイグル問題」に介入されることを最も嫌うことくらいはわかっていたはずです。
なお、薛剣総領事のXへの書き込みはその後削除されていますので、中国は一定の譲歩を示しているともいえます。
そしてここで気を付けなければならないのは、はたして薛剣総領事の発言は、同総領事が感情に任せて勝手に行ったものなのか、ということだと思います。以前にもお伝えしたとおり、習近平体制の権力基盤は、軍部の反発もあってこのところかなり弱まっています。今回の高市発言を国内の権力闘争に有利な形で利用しようとしていることは間違いありません。
習近平体制での戦狼外交と呼ばれる外交手法として、意図的に過激な発言をして相手や周囲の反応を探る、という認知戦を仕掛けられている可能性を見極めるべきです。
私は、今回の総領事の発言は、本国からの指示によるものにしろ、総領事が勝手におこなったものにしろ、いずれにしても戦狼外交戦略上の定石として実行されたものに違いないとみています。そしてその結果、習近平の国内権力闘争にどのように作用したかはともかく、少なくとも日本や米国の反応をうまく引き出すことには成功したのではないでしょうか。そのことを次に書きます。
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