「オーバーツーリズム」ではないスーツケース放置問題の本質
極めて具体的な問題としては、スーツケースの放置問題があります。これは関空などで顕著なようですが、これも奇妙な話です。まず、どうしてスーツケースを捨てていくのかというと、持参したスーツケースではキャパが足りなくなり、大きなものに買い替えたからです。なぜ、キャパが足りなくなったのかというと、お土産を買ったからです。
つまり、GDPという観点からすれば、大型スーツケース一杯のお土産代金+大型スーツケースの代金を「お買い上げ」ということになります。これは相当な額です。
ですから、スーツケースを処分したいという旅行者が登場するということは、その人数分だけでも相当な経済貢献になります。問題は、「使用済の小さなスーツケースの正しい捨て方」というのが、旅行者に伝わっていないからです。なぜ伝わっていないのかと言うと、実は「正しい捨て方」というものが、そもそも「ない」からだと考えられます。
ここからは推測ですが、スーツケースについては「放置されると持ち主を探したり、爆発物が入っていないか検査したり大迷惑」だということになっています。ならば、何らかの段取りをして「正しい捨て方」を政府の観光局なりが決めて、各国語で周知徹底すれば良いのです。
ですが、そのルールがありません。どうしてかというと、スーツケースは最低限消毒さえすれば、再利用が可能だからです。ということは「正しい捨て方」というルールを決めると、恐らくはリサイクルの仕組みを作ろうという話になります。
その場合ですが、「新品でないと気味が悪い」的なカルチャーは恐らくは日本人がマックスで、アジア人を含む海外からの旅行者は抵抗感がありませんから、「じゃあ、新品でなくリサイクル品でもいいや」となると思います。
そうなると、スーツケース業界としては、せっかく新品を爆買いしてもらって、コロナ禍時代の欠損を取り返しているのに、新品が売れなくなるということになります。
ということは、スーツケース業界の側には「正しい捨て方を決める」ということへの動機は薄く、むしろ「決めない」ことへの動機が強い可能性があります。もちろん、現状ではホテルや空港が困っているので、何らかの「正しい捨て方」を決める必要があります。
そして決めた場合は十中八九の可能性で「勿体ないので消毒してリサイクル」ということになるでしょう。そうなるのは困るので、ウヤムヤな現状をできるだけ引っ張るという動機が業界にはあると思います。
仮にそうであるのなら、問題の核心は「オーバーツーリズム」ではないということになります。
一方で、24年の春以来、大きなニュースになっていたものとして、富士山の撮影スポット問題があります。具体的には、車道の反対側から撮影すると、青いデザインの平屋のコンビニの上に富士山が乗っているように見える場所が人気化したわけです。
撮影スポットとして人気化したために、交差点内で立ち止まったり、車道を渡ったりする危険行為が横行したのです。このために、コンビニでは富士山の「目隠し」という対策に追い込まれたり、試行錯誤がされたようです。
このニュースですが、日本国内の報道では「迷惑行為の横行」と手厳しい評価がされました。また「目隠し」をしていた時期に関しては、肝心のコンビニ本社が「目隠し」措置でブランドが毀損されるとは判断していなかったように、国内世論は「目隠し」対策は仕方がないという意見が大勢のようでした。
この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ









