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感情的な嫌悪感だけが独り歩きしている「クルド人問題」

そんなわけで、歴史的に特に為政者相互としては独特の親近感を維持してきたわけで、不思議な二国間関係があります。クルドの人々は、20世紀を通じて独立を模索してきましたが、トルコからも王政イランからも、あるいは革命イランからも、更にはサダムのイラク、アサド父子のシリアからも弾圧を受けてきました。

この4カ国は、「絶対にクルドの国=クルディスタンの独立を認めない」ということで、態度を一貫させています。

そんな中で、トルコにとっては近年は差別感情が緩和されているものの、やはりクルド人にとっての住心地は良くありません。そんな中で、富裕層や知識人の多くはフランスなど欧州に脱出していますが、貧困層は行くところがなく、結果的に日本に流れてきています。

トルコとしては、厄介者が日本に行ってくれるのは基本歓迎ですが、そこで経済力を身に着け、その中からカリスマ的なリーダーが生まれるようだと、これは脅威になってしまいます。ですから、あくまで憶測ですが、リーダーシップの取れるような人物が浮上したら、日本の官憲と共同でコミュニティとの分断を図るようにしている可能性があります。

では、クルド人というのは、日本の友好国であるトルコにとっての厄介な存在なので、日本としては弾圧して良いのかというと、そう簡単ではありません。他でもないアメリカの中東政策にとって、クルド人には「被害者の正義」を認めるというのが、大方針になっています。

イラン革命の際に、革命で良い政権ができたのなら自分たちの独立も認められるはずだとして活動したクルド人に対して、ホメイニの革命政府は大弾圧をしました。

これに対しては人権外交で有名だったカーターは不快感を示しました。それ以上に重要なのがジョージ・W・ブッシュがイラク戦争に踏み切った経緯です。大量破壊兵器を開発中だという容疑に加えて、サダム・フセインがクルド人に対して化学兵器を使用したというのが、イラク戦争の口実の一つとして掲げられていたのでした。日本としては、イラク戦争の後方支援を進める中で、クルドの正義へのコミットもしているのです。

更に、シリアの内戦においても、クルド人の多くはアメリカと連携していました。勿論、アメリカとクルドの連帯というのは、ブッシュ時代とオバマ時代の話であり、トランプはむしろ反対しているようですが、それはそれとして、クルド人の「正義」をアメリカは重視しているということを、日本政府としては無視はできないわけです。

結果的に、西川口にクルド人コミュニティができて、その中にオーバーステイが相当数あるにしても、日本政府が徹底的な摘発をできない、あるいはしないというのは、このためです。

トルコの利害からは「厄介なクルド人を日本に引き受けてもらいたい」「けれどもカリスマ的なリーダーが出てきて団結されるのは困る」という要望が感じられます。アメリカのブッシュ=オバマの路線からは「クルドには被害者としての正義がある」という認識が感じられる中では、日本政府としては曖昧な対応しかできないのです。

問題は、そうした経緯を政府当局が世論に一切説明しなかったということです。その結果として、クルドの味方をするのはド素人の極左グループ、その他の一般世論は排外的で、地元の保守政治家も排外感情を票にしようという中では、トラブルを調整できずに問題がズルズル長期化していると考えられます。問題の背景が伝わらない中で、感情的な嫌悪感だけが独り歩きしているのです。

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