毎年老いる私、いつも元気な庭の小鳥。ホンマでっか池田教授が78歳で痛感する「老化」の残酷な不条理

 

庭の小鳥たちがうらやましい

冬の間は、朝起きて、庭のコクサギの枝に吊るしてある鳥の餌台を見て、ヒマワリの種を補充し、水飲み場の水を新しいのに代えるのも私の仕事である。気が向くと、バナナを輪切りにして西洋シャクナゲやカルミアの枝に刺したり、安物のジュースを半分くらいに水で薄めて、ガラスの器に入れたりしている。

ヒマワリの種はシジュウカラやヤマガラの餌で、バナナやジュースはメジロやヒヨドリの餌である。最近はキジバトが来て餌をねだるので、「野鳥のまき餌」というのを買ってきて、時々庭に撒いている。トウモロコシやオーツ、アワ、キビなどが混入しているもので、見ているとキジバトは選択的にトウモロコシを食べる。他の雑穀に比べ大きいので、効率がいいのだろう。小鳥たちの元気な姿を見るのは楽しいが、あまり元気でない我が身を振り返って、元気で羨ましいね、と思ってしまう。

山梨大学に勤務していた頃の旧宅は、今の自宅から急坂を登ったところにあった。朝、通勤のために小走りで坂を下りていく途中で、白い子犬を連れたおばあさんによく遭った。おばあさんは私を見ると、「若い人はいいね、元気で」と声をかけてくれた。私は「おはようございます」と返事をしたが、「別に元気じゃねーよ。急がないと電車に乗り遅れちゃうんだよ」と心の中で思っていた。でも、今から思えば十分元気だったのだ。今では、たとえ電車に乗り遅れそうでも、急坂を走って降りたりしない。そんなことをすると途中で加速度がついて、弱った脚がついて行けずに転倒するに決まっている。

75歳を超えたら骨折が最大の敵

75歳過ぎて、一番怖いのはがんになることではなく、脚の骨折なのだ。私の友人の何人かは階段から落ちて脚を骨折して、入院→寝たきり→誤嚥性肺炎という経過をたどり、亡くなられた。友人の南伸坊は2025年の初夏に大腿骨を骨折した。先日、東京都写真博物館で開かれている、養老孟司&小檜山賢二の「虫展」の内覧会でお会いしたら、普通に歩いていたのでびっくりした。手術した次の日からリハビリで歩かされて、すっかり治ったという。この人はかつて肺がんになって治療もせずに自然治癒した人だ。南伸坊は不死身なのか。

元気な時にはほとんど気が付かなかったのだが、自分があまり元気じゃなくなってくると、街の中で杖を突いたり、車いすに乗っていたりする人が意外に多いのに気が付くようになる。杖を突いて大儀そうに歩いている人を見ると、声には出さなくとも「大変ですね」と同情すると同時に「何とか楽しいことを見つけて生きていってください」と応援したくなる。まあ、明日は我が身だけれどね。

反対に元気そうにすたこら歩いている若人を見かけると、子犬を連れたおばあさんと同じことを言いたくなる。でも表面的にはそう見えるだけで、そのうちの何人かは重い病を抱えて辛うじて生きているのかも知れない。人は自分の病や悩みについては敏感だが、マスとしての他人は、みんな元気なように見えるのだ。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋)

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