「国家情報局設置法案」に残る大きな疑問。“雑多な情報収集”から“戦略情報分析”への転換という絶望

 

まずは戦前の「内閣情報局」を総括すべき

そうは言っても、諦めて放っておく訳にもいかないので、「50年、100年かかる」ところを1年でも2年でも短くするために努力したいと国会が思うのであれば、まずは戦前の「内閣情報局」がなぜにあれほど無力で、国の進路を誤らせ破滅に転がり込むのを止められなかったのかを、きちんと総括することから始めたらどうか。

内閣情報局は、昭和6(1931)年9月の満州事変で内外情勢が緊迫する中、政府内の情報・宣伝機能の統一・強化を目的として、昭和7(32)年に外務、陸軍、海軍、文部、内務、通信の6省の情報関係部局の部長級を集めた「情報委員会」が設置されたのが始まり。

これが昭和11(36)年に内閣の公式の機関となり、さらに12年に総理大臣直属の内閣情報部、15年には内閣情報局に、とんとん拍子で昇格・拡充され、「国策遂行の基礎たる事項に関する情報蒐集、報道および啓発宣伝」のほか「新聞等の出版物や放送に関する検閲」に当たることになった。

しかし、各省からの情報を統合すると言いつつ、実際には「陸海軍の軍事情報とその報道はその範囲外に置かれ」たので、「業務の重点は国内の言論・文化・マスコミ統制に置かれることにな」った。

またこの流れの中で、国策的な通信社を設けて国際情報を蒐集すると共に、日本発のニュースを日本語だけでなく中国語、英語、スペイン語、フランス語で放送し、あるいは占領地で新聞を発行するなど、日本の立場を宣伝し国際世論を誘導することに力を注いだ。

この「同盟通信社」は、上記の情報委員会の提言で昭和11(36)年に設立され、終戦時には海外を含め5,500人を擁する大会社となった。戦後、GHQの下、一般通信部門は共同通信社、経済情報部門は時事通信社、通信と宣伝は日本電報通信(電通)となって今日に至っている。

戦前にはこれとは別に、昭和10(35)年に「内閣調査局」が設けられている。首相の直下で重要政策について調査・建議する「内閣審議会」の下部機関で、「各省庁から派遣された文官だけでなく、陸海軍武官や民間人も自由に任用して政策の統合」を図ると言っても、ここでもまた「軍事・外交に関する権限はなく内政面だけに限定され、また各省庁に対する指揮命令権は持たなかった」。

この内閣調査局が昭和12年4月には「企画庁」に、同年10月には企画庁と資源局を統合して「企画院」に大出世を遂げた。

しかしこの流れを推進したのは満州国建設の中心を担った星野直樹(元満州国国務院総務長官=事実上の首相)や岸信介(元同総務庁次長)を筆頭とするいわゆる「革新官僚」グループで、彼らは国家社会主義的な計画経済を実行するための拠点として企画院を拠点にしようとしたが、東條英機(元関東軍参謀長)ら陸軍は同院を「国家総動員政策の総合統制機関」に仕立て上げようとした。

それに対して海軍が、そこまでの強大な権限を与えることに反対して収拾が付かなくなったため、結局は単に「物質動員」計画の事務を担当するだけの地味な存在に成り下がった。

★ 以上の「」で引用した部分のほとんどは秦郁彦『戦前期日本官僚制の制度・組織・人事』(東京大学出版会、1981年刊)による。

内閣情報局は「国策遂行の基礎たる事項に関する情報蒐集」、企画院は「政策の統合」を第一任務と謳っていて、つまりは国家経営の基本となる戦略的判断と国策の決定に必要な選択情報を政治中枢に提供するインテリジェンス機関になろうとしたのだが、前者は「陸海軍の軍事情報とその報道はその範囲外に置かれ」、後者も「軍事・外交に関する権限はない」というのではインテリジェンスなど出来る訳がない。

その反面で軍事政策に関して全権を握った軍部は、戦略的には丸で無知・無能、戦術的には日露戦争の“成功”に引きずられた陸軍の白兵戦至上主義、海軍の艦隊決戦主義など時代遅れの考えにこだわって失敗し続け、日本を破滅させた。

そのことは名著とされる戸部良一他『失敗の本質』(ダイヤモンド社)などで総括されているので繰り返さないが、その根源は、戦略的理性とも言うべきインテリジェンスが、天皇にも内閣にも軍部にも欠落していたというところに行き着くのだろう。

その結果として、軍部は暴走し、天皇と内閣はオロオロするばかりという中で、内閣情報局は「国内の言論・文化・マスコミ統制」、企画院は「物質動員計画の事務」という、軍部に叱られずに済む末端・瑣末な仕事に励むというところにまで堕落した。

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