「国家情報局設置法案」に残る大きな疑問。“雑多な情報収集”から“戦略情報分析”への転換という絶望

 

「国家安全保障局」との「屋上屋」への懸念も

今日、「国家情報局」を新設しても、自衛隊が昔の軍部のようにのさばってその活動を歪めるとは全く考えられない。

しかし戦前と同じく、各省から派遣された(そう言っては申し訳ないが)二流人士の寄せ集めで、親元の各省にモノ言えるだけの権限も力量も見識もない中で、相変わらず外交は外務省、防衛は防衛省、金融・経済は財務省と経産省など本省の“専権”であるからして、「お前らが情報をよこせと言うなら出すけれども、お前らが理解できるのはこの辺とこの辺だけじゃないの」と軽んじられて、大した仕事はできないという今までの弊害はこれからも続くのではないか。

その根本原因は、これまでの内閣情報調査室は霞ヶ関では基本的に「警察の出先機関」と見做されていて、実際、歴代の室長はもちろん警察からの出向者だし、シギント(通信傍受諜報)を担当する防衛省情報本部の電波部長には警察出身で内調を経験した者が就くという慣例が長く続いていた。

またヒューミント(スパイの育成・管理を含む人的接触による情報取得)は専ら公安調査庁と警察の公安担当上がりが担当するが、この人たちは日本共産党や後に出てきた過激派など左翼対策しかやったことがなく、今時はほとんど役立たない時代遅れの存在である。

このように「警察の出先機関」と半ば軽蔑的に言われてきた内調の看板を「国家情報局」に格好よく掛け替えたところで、その前歴が消え、能力が向上する訳ではない。

さらに悪いことに、安倍政権で設置された「国家安全保障局」との競合、もしくは「屋上屋を架す」ことになる弊害も始まる前から指摘されている。首相官邸の直下に「国家安全保障会議」があり、ここでは首相と関係閣僚が「外交・防衛の基本方針を策定し、国防の重要事項を審議する」。その事務を担当するのは「国家安全保障局」で、同局は各省庁に対し必要な情報を求める権限を持つ。

さてそこで、これから新設されるインテリジェンス体制も全くこれと同格で並立する形になり、首相官邸の直下に「国家情報会議」があり、ここでは首相と関係閣僚が「情報活動の基本方針を策定し、重要情報の分析評価を行う」。その事務を担当するのが「国家情報局」で、同局は各省庁に対し必要な情報を求める権限を持つ。

となると当然、「外交と防衛は国家安全保障会議・局の専権なので、国家情報会議・局はそれ以外のことを扱え」という話になるはずで、実際、国家安全保障局の初代局長だった外務省出身の谷内正太郎は「権限が重複していることで、2つの組織が一定の競合関係になり、緊張が生じる可能性はある。……屋上屋を架すようなことはあってはならない」(4月16日付東京新聞)、「インテリジェンス機能は新しく組織を作れば強化できる類いのものではない。……5年、10年単位で専門人材を育てる長期的視点も求められる。腰を据えて全体の制度設計をすべきだろう」(毎日新聞4月15日付)と、深い懸念を表明している。

当たり前で、日本で数少ないインテリジェンスが出来るこういう人の意見を拝聴することもなく法案を出した高市首相も、それにホイホイと賛成票を投じた野党も、罪深い。このままこの法案を押し通すのでなく、日本の将来を決するインテリジェンス機能とは何か、それが戦前も戦後も上手く出来ないのはどういう訳なのかのそもそも論からやり直さないと、この国の先行きはますます危なくなる。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年5月4日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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