「どの国でもやってる」という論点ずらし。高市早苗の「大量AI中傷動画作戦」を“矮小化”する人たちの恐ろしさ

 

民主主義のさらなる劣化につながるネガキャン動画作戦の矮小化

政治家がいかに自分を強く見せるか、あるいは相手をいかに低く見せるかというイメージ操作は、古くからある手法であり、世界で広く行われているといってもおかしくはない。しかし、今回高市陣営が行ったとされるのは、それとは明らかに異なっている。

今年の衆院選で、中道候補に浴びせた大量動画の中の文言を文春記事からいくつか引用してみよう。

枝野幸男 <国民の血税を1日3億円もドブに捨てながら政局ゲームに興じるプロのクレーマー>

岡田克也 <息を吐くように嘘をつく「ミスター真面目」>

馬淵澄夫 <一度国を壊した素人に今の激動を乗り切れるはずがない>

文春の記事によれば、松井氏は知人から「総裁選で高市陣営が苦戦しているので手伝ってあげてほしい」と木下秘書を紹介され、すぐにチームに参加した。苦戦からの逆転のためには、対立候補へのネガティブな内容のショート動画をAIで大量につくるのが効率的と松井氏がアドバイスして、作戦は進められた。

その後の衆院選で再び「部隊」が動き出すと、木下秘書はショートメッセージで具体的な中道批判を次々に依頼。松井氏は写真とAI生成のイメージ図を組み合わせ、ほぼ自動で大量生産し、様々なアカウントを使って投稿を繰り返した。

これは嘘や真偽不明の情報をバラまいて社会的に抹殺しようとする行為にほかならない。「スピンコントロール」という言葉で一括りにし、「外国がやっているから日本も」とするのは、意図的な論点ずらしとしか思えない。

そもそも「外交・防衛のためにも誹謗中傷動画の大量作成部隊が必要」という論理がさっぱりわからない。外国からの工作が怖いからといって、自国内の政敵を、匿名AIを使って組織的に誹謗中傷して潰すことが、なぜ国の「防衛」になるのか。 全く説明がついていないのだ。

外国からの情報工作を懸念するのであれば、本来とるべき策は「透明性の確保」「ファクトチェックの強化」「デジタルリテラシーの向上」といった、民主主義を強化する方向をめざすべきであろう。

選挙における誹謗中傷は確かに昔からあった。だが、それはチラシ撒き、週刊誌リーク、口コミなどであって、人力とコストに限界があり、情報の拡散速度は遅かった。

今は全く違う。AIによる自動量産とSNSアルゴリズムによる拡散である。民主主義への介入が、大量破壊兵器化しつつあるのだ。

高市首相は相変わらず国会で「私自身も秘書も面識がない」と、松井氏との関係を否定している。しかし、木下秘書との67通にのぼるショートメール、LINE、シグナルの“証拠メール”を文春に提供したであろう松井氏は「世界ではスピンコントロールは当たり前」とうそぶいているのだ。高市陣営の本音もまた松井氏と同じなのではないだろうか。

「世界で」「昔から」「どこの陣営でも」。そんなレッテルを貼ることで、今回のような「民主主義ハッキング」の異常性を、あたかも「いつもの光景」であるかのように錯覚させようとするべきではない。

一国の首相の陣営で発覚したネガキャン動画作戦の持つ意味を矮小化することは、民主主義のさらなる劣化につながる。国のリーダーが範を示すという、あたりまえの“倫理”を忘れた先に待っているのは、政治エゴがはびこる無間地獄だ。今、この欺瞞を看過すれば、日本の選挙戦は遠からず、「誰がより巧妙に大衆を騙すか」を競う、末期的で殺伐とした空中戦へと姿を変えてしまうだろう。

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