筋が悪すぎる日本維新の国権強化法案群
こうして、高市が自身に降りかかった疑惑で足掻けば足掻くほど、会期末の日程がキツくなる中で、しかし少なくとも政権の基盤となっている日本維新との「連立政権合意」の重要項目のいくつかだけは何としても通過させないと、政権そのものの存立が危うくなる。維新側も切羽詰まっていて、ここで連立入りしたことによる成果を支持者に示さないと、存在意義が疑われかねない。そこで高市に対しては、会期を大幅延長して、参院が衆院と異なる議決をした場合、もしくは60日以内に議決をせず衆院がそれを事実上の否決とみなした(いわゆる「みなし否決」の)場合、衆院が3分の2以上を以て再可決すれば法案は成立するという憲法59条の規定に基づく強行手段を揮ってでもいくつかの関心項目を実現させるよう迫っている。が、もちろん高市は会期延長など応じる訳がない。
ここにおいて、衆院での圧倒的優勢にも関わらず参院では少数という高市政権の抱える潜在的矛盾は、高市vs維新それぞれの自己都合のぶつかり合いとして顕在化せざるを得なくなるのである。
しかも具合の悪いことに、維新が昨年10月15日に高市から連立入りを打診され、わずか数日の協議で政策合意に押し込んだ案は、野党だった維新が”右から”自民党を批判しもしくは叱咤するというスタンスからの無責任な(と言って言い過ぎなら小気味よい)国権強化ぶりが目立ち、それをさらに高市が自民党での議論を一切経ることなく飲み込んでしまったために、突っ込みどころ満載の筋の悪いものばかりになった。
自民と維新の昨年10月20日調印の政策合意のうちの主なものは次のとおり(本誌による要約。要旨はhttps://o-ishin.jp/coalition2025/ 全文は、https://o-ishin.jp/news/2025/images/624de5f22900f6e88e892abb49d3fc70ef3cac92.pdf )。
- 「飲食料品消費税2年間0%」をつなぎとして「給付付き税額控除」を実現
- 安定した皇位継承に向けた「養子縁組」の導入
- 憲法9条改正、緊急事態条項新設に向けた条文起草協議会の設置
- 「日本国国章損壊罪」の制定
- 「防衛装備移転3原則の運用指針」の5類型の撤廃
- 自衛隊の階級呼称、服制等の国際標準化
- 「国家情報局・国家情報会議」の設置、スパイ防止法検討
- 「副首都」実現に向けた法案
- 「議員定数1割減」の議員立法
参院も通過成立したのは「国家情報局」だけ
これらのうち、6月26日現在で参院も通過して成立しているのは(7) の「国家情報局」関連法案のみ。警察官僚主体の「内閣情報調査室」の看板を架け替えただけでは国家的な「戦略情報分析」、すなわち本当のインテリジェンスなど出来る訳がないことについては、本誌No.1364(今年5月4日号)参照。これに関しては野党の中の旧左翼陣営も困ったもので、スパイ防止法との関連で「国民監視」が心配だという本筋からかけ離れた批判の仕方に終始している。
(1) の消費税減税については、「0%ではレジ改修が間に合わないから1%で」という間抜けとしか言いようのない話が沸き起こって迷走し、またなぜ2年間限定なのか、なぜその先は「給付付き税額控除」が望ましいのかについて、高市は一度も国民にはおろか自民党に対しても自論を説明したことがない。この問題は、古くは小泉政権時代の谷垣禎一財務相が「日本は低負担中福祉」と定義して以来、一度もまともな議論が行われたことがなく、単なる惰性で低負担のまま中福祉を低福祉に下げるという厚生労働官僚の浅知恵に委ねられてきた。せめて「中負担中福祉」にするのかそれとも思い切って北欧並みの「高負担高福祉」を目指すのかの”国民負担率”の議論から始めて、その負担を税と社会保障費のバランスをどう取るかの”税と社会保障費の一体改革”プラン、さらにその税部分を直接税と間接税のどちらを主に取るのかの”直間比率”ーーという国としての基本設計をやり直すべきではないか。私は昔から、消費税を欧州諸国並みに15~20%にする代わり食料など生活必需品は完全にゼロ化し、所得税も減税するという、先進国型間接税中心主義に大転換すべきだと主張している。今の政権は余りに瑣末なところへ議論が流れている。
(2) の養子縁組による皇族数の確保は、一皮剥けば「男系男子による皇位継承」というイデオロギーへのしがみつきであって、こんな案を両院議長に無理やり「国会の総意」に仕立てさせて強行する意味は何もない。中国嫌いの高市は、落合恵美子=京都産業大学教授(家族社会学)の「日本の家族観はもともと厳密な父系(男系)制ではなく、女系も重んじられる双系的なもの」であって、「男系男子にこだわる人は、それが『中国化』だという意味を認識していないからではないでしょうか。日本の独自性とは何かを真剣に考えよう」という意見(6月27日付毎日新聞電子版)をよく聞いた方がいいのではないか。皇室を”中国化”するなんて、高市さん、不敬の極致じゃないですか。
(8) の「副首都」は、筋が悪い話の典型で、大阪ローカルの府と市の二重行政解消の問題と、何もそれは大阪だけの話ではなく全国20の政令指定都市と道府県との間にも多かれ少なかれ存在する同様の事態を全体としてどうしたらいいかという問題と、首都が戦乱か災害で壊滅する場合に備えて副首都が予め用意されていた方がいいのかどうかという問題とが、全部ゴチャマゼになっていて、維新の思考混乱ぶりを示している。こんなものに国会が真面目に取り合うことがおかしい。
もう1つだけ。(9) の定数を比例代表だけで45議席減らすという案は、小選挙区制をいじると自民党もてんやわんやになって収拾がつかなくなるが、比例のみあるいは比例復活で上がって来た議員はもともと”B級視”されているというコンプレックスがあって文句を言いづらいだろうというところに付け込んだ卑劣なやり方で、よろしくない。より本質的には、小選挙区制だけでは「2026年高市自民党=317、2009年鳩山民主党=309」のような極端な振れが生じるので、それを緩和するため何らかの形の比例代表制と噛み合わせるという現行選挙制度の設計の基本を大きく変更することになるので、少数政党の存在価値をどう考えるかから議論が必要。それを「1年かけて結論が出なければ議論を打ち切って問答無用で実行する」というのは民主主義の自殺行為である。
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