【ホルムズ海峡、再びの緊張 ─ 「経済安全保障2.0」の現実】─ 停戦後も封鎖という外交カードは手放されない ─
まず何より注目しなければならないのは、ホルムズ海峡をめぐる情勢の急変です。
6月中旬に合意された覚書に基づく停戦後、ホルムズ海峡の航行はいったん正常化に向かうかに見えました。
しかし7月6日夜、オマーン沖でタンカー1隻が何らかの飛翔体を受けて発火。翌7日には、カタール企業が運航するLNG輸送船「アル・レカヤット」とサウジアラビア企業の大型タンカー「ウェディヤン」がミサイル攻撃を受け、さらに3隻目の船舶がドローン攻撃を受けたと報じられています。
イラン革命防衛隊による関与が強く疑われていますが、イラン側は公式な犯行声明を出していません。
この事態を受けて、アメリカ財務省は6月の合意で解除していたイラン産原油の輸出許可を撤回し、制裁を再発動しました。さらに米中央軍は7月7日、ホルムズ海峡周辺のイラン軍事施設80カ所以上に対する攻撃を実施したと発表しています。
イラン側はこれを「停戦の明確な違反」だとするアメリカの主張に対し、逆に自国の正当性を主張しており、両者の言い分は真っ向から対立したままです。
私がここで注目したいのは、個々の攻撃の応酬そのものよりも、その背景にある構造です。
イランは1979年の革命以降、正面からの軍事力では優位に立てない大国に対し、機雷やドローン、小型高速艇を用いた非対称戦で対抗する術を磨いてきました。その象徴的な舞台が、世界の原油・LNGの約2割が通過するホルムズ海峡です。
今回の一連の危機で、イランは「チョークポイントを押さえれば、軍事力で劣っていても世界経済を人質に取り、大国と渡り合える」ということを、身をもって世界に示しました。
WTI原油先物は、6月の海峡封鎖から一週間でおよそ36%上昇し、その後も1バレル100ドル超という高値で推移しました。ニューヨーク株式市場も、米イラン対立の再燃を受けて大きく値を下げています(NYダウは、7月8日、トランプ大統領が対イラン停戦の終了を示唆したことを受けて1日で577ドル安となる一方、ハイテク株中心のナスダックは半導体関連の好材料で逆に上昇するなど、市場の反応は一様ではありませんでした。ただし翌9日には、ホルムズ海峡での米軍ヘリコプター撃墜が伝わるとナスダックが一時4%安まで急落するなど、事態の推移次第で市場が神経質に反応する構図が続いています)。
また、IMFやIEA、世界銀行、WTOといった国際機関は7月8日、共同声明で「紛争解決とホルムズ海峡再開に向けた進展を強く求める」と表明しました。燃料や肥料の価格は足元でやや落ち着きを見せているものの、声明自体が「不確実性は依然高く、影響が長引く可能性がある」と認めており、根本的な問題が解消されたとは言えない状況です。
私が現場感覚として申し上げたいのは、いったん「封鎖という切り札の有効性」を味わった当事者が、それを完全に手放すことは考えにくいということです。
今後もイランが同様の手段に訴える可能性は残り続けるでしょう。そしてその「不確実性」自体が、各国に保険料や船賃の上昇、備蓄の積み増し、迂回航路の確保といった恒常的なコストを強いることになります。日本を含む石油消費国は、自由航行を当然の前提としてきたサプライチェーンそのものの再設計を迫られているのです。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ





