マラッカ海峡、台湾海峡、バシー海峡というチョークポイントも
さらに懸念すべきは、このリスクがホルムズ海峡だけの問題ではないという点です。
世界最大の海上輸送量を誇るマラッカ海峡は、最も狭い地点でわずか3キロメートルほどしかなく、海賊の脅威も抱えています。台湾海峡とその南のバシー海峡も、米軍とフィリピン軍が対艦ミサイルを展開する係争地帯であり、東アジアの不確実性が凝縮した最前線です。
もしこうした複数のチョークポイントで同種の緊張が連鎖すれば、世界経済はエネルギー価格の高騰にとどまらない、より深刻な機能不全に陥りかねません。
今回の危機が私たちに突きつけているのは、単なる地域紛争の再燃ではなく、「世界経済は何によって支えられているのか」という、より根源的な問いです。
市場が本当に取引しているのは石油やドルそのものではなく、「明日も安全に航行できる」という予測可能性への信頼です。その信頼が揺らげば、保険は成立せず、投資は止まり、経済は萎縮します。だからこそ私は、これからの安全保障の中核には、軍事的抑止だけでなく、経済活動を止めないための「対話の窓口」を維持する努力が据えられるべきだと考えています。
7月4日のアメリカ建国250周年と、2月28日に殺害されたイラン前最高指導者ハメネイ師の国葬・服喪期間が重なったことで、双方は一時的に攻撃を停止し、協議も中断していましたが、7月6日のホルムズ海峡付近で起きた“商船への攻撃”を引き金に、アメリカ軍の空爆が行われ、イランも報復を宣言していることで、また大混乱の予感がしています。
一時休止中の協議が開催されるのか否かも不透明な状況ですが、再開されたとしてもホルムズ海峡の管理方式や、イランの核開発(濃縮ウランの扱いや「平和利用」の可否)をめぐる隔たりは依然として大きく、予断を許さない状況が続きます。そして、覚書に記された“60日間の協議”のデッドラインもじわりじわりと近づいてきています。
原油の多くを中東に依存する日本にとって、この問題は決して対岸の火事ではありません。NATO首脳会議(トルコ・アンカラ)では、加盟国がホルムズ海峡へ掃海艇を派遣する方針も示されました。このことは、海峡の安全確保は、もはや当事国だけの課題ではなく、国際社会全体が分担すべき「公共財」としての性格を強めていることの現れです。日本もまた、自由航行の確保という一点において、これまで以上に主体的な役割を問われる局面に入りつつあると私は感じていますが、果たして日本にその準備と覚悟はあるでしょうか?
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ





