中国のAIブームは成長どころか失業を生む事態に。米国と真逆の「逆噴射」に追い込まれた習近平の大誤算

 

虚しい過度の政治期待

冒頭に挙げた米国と中国における、AI化がもたらすGDP成長率への寄与について議論を進めたい。

AIが、市場経済による発展過程を経てきた産業構造の国では、明らかに労働力不足を補うであろう。一方、計画経済による不完全就業者の多い国では、AI化が失業を増やす可能性を持っている。中国のように不完全就業者の多い国では、AI化がむしろ逆効果になって人々から雇用を奪うはずだ。AIは本来、「労働の代替」である。余剰労働力の多い国が、雇用を奪うのは当然である。労働力不足の国では、生産性を補う役割を果たす。このように、AIは就業状態によって全く異なる現象をもたらす。

中国は現在、AIによって衰退する経済を立て直そうと必死である。中央政府と上海政府は7月18日、合同でヒューマノイドロボット・イノベーションセンターの試作・試験用公共サービスプラットフォームを設立した。鳴り物入りの宣伝である。

一方では7月初め、杭州に国内初の「ロボットのための学校」を開校した。ここでは、各種ロボットが専門的な訓練を受ける。それぞれの専門コースで、産業用途、医療、芸術、スポーツなどに適応した「ロボット教育」が行われる。中国は、国を挙げて「人型ロボットの開発と訓練」を始めた。国民啓蒙活動だが、多分に国内経済不振をカムフラージュする目的も含まれている。

問題は、AIが国家の衰退を止められるか、である。現実論を言えば、AI活用だけで止められるものではない。ただし、条件が揃えば「経済減速を和らげる」ことは可能である。AIが、根本的に経済衰退を止められない理由は、次の点にある。

AIは本来、「生産性向上の技術」であって、「人口」「債務」「制度」という問題解決は不可能である。中国は、敢えてこの不可能なことをAIによって解決させようとしている。言葉は悪いが、「最後のあがき」に映る。AI導入には、高度な人材・豊富な資本・自由な競争が必要である。中国は、これら諸条件を欠いているのだ。

経済の基礎体力が弱い国では、AIはむしろ雇用を破壊する。中国の場合、労働力過剰(不完全就業)、規制強化で民間活力が低下している。外資・人材が流出するという構造的問題を抱える。こういう悪条件が重なっている中で、AIは「痛み止め」になるが、根本的な「治療薬」にならないのだ。この限界を全く認識していない点に、中国の混乱ぶりが窺える。AI版一帯一路は、参加国の経済をかえって疲弊へ導くであろう。物事には、全て順序だった発展が必要である。中国とグローバルサウスは、これら条件を欠いている。

大きい内需減退補えず

中国が、抱える問題点の一つは人口急減である。中国は、技術革新によって人口減少に伴う労働力不足を補えるのか。部分的には補えるが、人口減少の規模が大きすぎて役立たないのだ。歴史的にみて、技術で人口減少を補えた国はほぼ存在しない。例えば、日本の技術力は高いものの成長率が低迷している。韓国は、合計特殊出生率の急低下で長期的に成長率が鈍化している。ドイツは、移民で補っているものの技術だけでは不十分である。これらは全て、人口減少に対して100%技術進歩で補えないことを示している。

要するに、労働力減少によって消費減少や投資減少を同時に引き起こすため、技術だけでは埋められないのだ。中国の場合、10年で7500万人の労働力が消える一方、移民流入がほぼゼロである。こうした需要不足の結果、すでに中国は若年層の高い失業率を招いている。AI創出による付加価値増加程度では、とても需要不足に追いつけない厳しい状況を生んでいる。米国の場合は別格である。移民希望者が、世界中から殺到している。AIの進歩と合わせてみれば、中国がまともに対抗できる「相手」でないのだ。

中国は、既に「国家主導モデルの限界点」に達している。国家主導モデルは、初期のインフラ整備や製造業の拡大によって、低賃金労働力動員には適したシステムである。だが、賃金が一定の限界を超えて上昇すると、強い「リアクション」が起る。イノベーションが低下するので、民間活力(消費・投資)が落込むので市場の魅力が低下する。この結果、外資が撤退を始めて技術導入が停滞し、高付加価値産業までが弱体化する。現在、既にこの状況が進んでいる。日本企業にとって中国は、魅力度5位へ低下している。

中国は今、国家主導モデルの転換点に来ている。経済発展を阻む桎梏と化しているのだ。国家主導による規制強化は、民間活力を削ぐ。具体的には、テック企業への締め付けと同時に外資撤退が加速するので、対内直接投資がマイナスへ転落する。これに伴い、研究などの人材流出が始まる。こうして、「国家主導モデルの副作用」が顕著になっている。中国AIは、監視AIを強化することによって国内をさらに引締めようとするであろう。これが、ますます中国経済を「窒息」状況へ追い込む。AIの悪用である。

中国は、国内経済の悪化をAIによって食止めることは不可能である。となると、ロボティクスは輸出へ向けられる。だが、中国製人型ロボットを購入する西側諸国があるだろうか。人型ロボットは、製造国の信頼性が最も大きな要素になる。「バックドア」が仕掛けられていないか。暴走することはないかなど、品質=信頼性が重視される。価格が、競争力のポイントにならず「製造国」の質が重視される。そういう意味で、権威主義国家の中国が製造する人型ロボット需要は、かなり制約されるであろう。つまり、売れないのだ。

この記事の著者・勝又壽良さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 中国のAIブームは成長どころか失業を生む事態に。米国と真逆の「逆噴射」に追い込まれた習近平の大誤算
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け