3. 給与体系の歪みと「学歴社会」の終焉
ここで、経済の基本である需給バランスに目を向けてみましょう。
現在、知的労働とされるホワイトカラーの領域ではAIによる自動化が進み、労働力の価値が相対的に低下しています。反対に、建設、物流、介護、製造といった現場を支えるブルーカラーの領域では、深刻な人手不足が続いています。
本来、経済原理に従えば、供給過多になるホワイトカラーの給与は下がり、人手が足りないブルーカラーの給与は劇的に上がるべきです。しかし、現実にはそうなっていません。ここには、長年日本社会を縛り続けてきた「学歴社会」の歪みがあります。
「机に向かう仕事の方が価値が高い」という根拠なき序列が、需給バランスによる適正な賃金移行を阻害しているのです。しかし、AIの進化はこの虚飾を剥ぎ取ります。
「AIに代替可能な100枚のプレゼン資料」を作る人間よりも、「AIには不可能な、現場で一つの不具合を直す手」を持つ人間の方が高い報酬を得る。そんな「価値の逆転」は、すぐそこまで来ています。
4. 「AIのニーズ」自体が消滅するパラドックス
さらに重要な視点があります。それは、AIの需要そのものが減退する可能性です。
前述の通り、高度なAIの主なユーザーは、情報の整理や調整を業務とするホワイトカラーです。しかし、もしAIによってホワイトカラーの仕事が代替され、その職域自体が縮小していけばどうなるでしょうか。
「調整すべき人間」がいなくなれば、「調整を助けるAI」のニーズもまた、同時に消滅していくのです。
一方で、ブルーカラーの現場では、AIはあくまで「便利な道具」の一つに過ぎません。道具は人間を補助しますが、現場の仕事そのものを奪うことはありません。配管を修理するのも、繊細な素材を縫い合わせるのも、最後は物理的な「手」が必要だからです。
ブルーカラーが主役の社会になれば、現在のような「人間を凌駕しようとする高度な汎用AI」への熱狂的なニーズは、自然と落ち着いていくはずです。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ









