トランプ「弱さの露呈」か「合理的な判断」か?米国がイランへの大規模攻撃を見送った理由

 

3.トランプ大統領の逡巡 ─ なぜ「大規模攻撃」を見送ったのか

実は7月25日、トランプ大統領は一度、イランへの大規模攻撃を当面見送る方針を明らかにしていました。その背景には、防空ミサイルの枯渇や中東全域への戦火拡大への懸念が側近の間で共有されたことがあると言われています。

それに加え、原油価格の高騰をはじめとする世界的なエネルギー危機のリスク、同盟国との関係悪化への配慮もあったようです。

マイク・ウォルツ米国連大使はこの決定について、「交渉に一定の余地を与えるためのものだ。ただ、米軍は作戦遂行に必要なすべてを備えている」と説明しました。

報道によれば、この協議に参加した側近の中で、大規模攻撃の計画に積極的な賛意を示した者はほとんどいなかったそうで、ジャレッド・クシュナー氏をはじめとする複数の側近は、イランとの交渉を続けながら経済的な圧力をかけ続けるべきだと提案していたと伝えられています。

しかし、この逡巡を「弱さの表れ」と見るのは早計だと思います。私は、交渉論の観点からは、むしろ極めて合理的な判断だったと評価しています。

大規模な地上戦や全面攻撃は米国側にとっても甚大なリスクを伴います。

原油価格のさらなる高騰、米兵の人的被害、そして11月に控える連邦議会中間選挙を前にした国内世論の反発 ─ どれもトランプ大統領にとって避けたい事態です。

中東の戦争にアメリカが介入することへの世論の反対は根強く、大統領自身も一刻も早く戦闘から手を退きたいというのが本音でしょう。

ただ、こうした「引き際を探る姿勢」こそが、皮肉にもイラン側に足元を見られる結果を招いているのも事実です。戦闘の激化はイランにとってもリスクですが、トランプ大統領が大規模戦闘に踏み出せずにいる状況を見透かすように、強硬な姿勢は崩していません。

イラン外務省のバガイ報道官は、国営イラン通信を通じて「米国が戦闘終結の覚書に違反し、対話の土台を破壊した」と米国を批判しつつも、パキスタンやオマーン、カタールといった仲介国を介した米国とのやり取り自体は続けていることを認めています。強硬な言葉と、水面下での対話継続 ─ この二重の戦略を、イランはかなり巧みに使い分けています。

こういう二重戦略は、調停の現場でもよく見かけるパターンです。実は、この光景を私は何度も見てきました。

「会議室では激しく相手を非難していたにも関わらず、休憩時間になると、別室で静かに話し合っている」

交渉とは、案外そういうものです。

国内世論や支持基盤向けのメッセージと、実際の交渉戦略を切り離すための、極めて意図的な手法です。

イランの指導部がこの二正面戦略をどこまで計算ずくで設計しているのかは分かりませんが、少なくとも結果としては交渉の主導権を握る形になっています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • トランプ「弱さの露呈」か「合理的な判断」か?米国がイランへの大規模攻撃を見送った理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け