5.湾岸諸国を巻き込む連鎖 ─ ドミノは止まるのか
この戦争の恐ろしさは、当事者である米・イラン両国だけでなく、周辺の湾岸諸国を次々と巻き込んでいる点にあります。
7月24日、米紙「The Wall Street Journal」は、バーレーンとクウェートが今月、イランの無人機やミサイル貯蔵庫といった軍事施設を標的に空爆を実施していたと報じました。両国による直接攻撃が明らかになったのはこれが初めてです。
ただし、この報道にクウェート側は強く反発しています。クウェートの国営通信は7月25日、クウェートの駐米大使が「クウェートがイラン空爆を行ったとする『The Wall Street Journal』の報道内容は全くの虚偽であり、クウェートは対イラン軍事作戦に一切参加していない」と主張し、自国の領土・領空・領海の作戦使用も許可していないとして、同紙に訂正を求める書簡を送ったと伝えています。
私は、この「食い違い」自体が、実は重要な意味を持っていると見ています。
仮にクウェートの否定が事実だとしても、「クウェートが攻撃に加担した」という情報が流布すること自体、イランにとっての報復対象を広げるリスクになります。逆に報道が事実に近いのだとすれば、クウェートが公式に否定せざるを得ないほど、この戦争への直接関与が地域内でセンシティブな問題だという証拠でしょう。
真相がどちらであれ、湾岸地域全体が疑心暗鬼に陥りつつあることは間違いありません。
実際、これまでにサウジアラビアが3月に、UAEが4月に、それぞれイランへの報復攻撃を実施しており、今回のバーレーン・クウェートの件を含めると、中東地域全体・湾岸諸国アラブ社会への紛争のドミノ現象への懸念は現実味を帯びてきています。
「The Wall Street Journal」によれば、UAEはバーレーンとクウェートに対し、イラン国内の標的情報やイランからの報復攻撃に対する防空支援を提供したとも報じられており、確実に緊張は高まっています。
イラン側も黙って攻撃を受け続けているわけではありません。
イランのファルス通信によれば、オマーン湾周辺を航行中のタンカーが7月24日、米軍のミサイル攻撃を受け、乗組員2名が死亡したとのこと。このタンカーはイラン産のLNGを積載していたそうです。
イラン革命防衛隊は同日、中東にある米軍拠点の半径500メートル以内に近づかないよう湾岸諸国の市民に求める声明を発表しました。軍事当局の高官は「イランの市民一人が殉教するごとに、米兵一人が命を落とすことになる」という、かなり挑発的な警告を発しています。
こうした相互の威嚇の連鎖は、当事者双方が「エスカレーション・ドミナンス(段階的拡大における優位性)」を握ろうとする典型的な行動です。
しかし歴史が繰り返し証明してきたように、威嚇の応酬はしばしば当事者の意図を超えて暴走します。第一次世界大戦の開戦過程を思い起こせば、局地的な事件が同盟関係を通じて瞬く間に大戦争へと拡大していった経緯は、決して他人事ではありません。
さて、今回のケースはどうなるでしょうか。
6.紅海の封鎖─フーシー派という「もう一つの当事者」
中東情勢を語る上で、もう一つ見過ごせないのが親イラン武装組織フーシー派の動向です――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年7月31日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録の上、7月分のバックナンバーをお求め下さい)
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