日本の問題は、入口ではなく出口にある
最後に日本です。学力そのものは決して低くありません。PISA2022(OECDが3年ごとに実施する15歳の学力調査)の数学は536点でOECD加盟37か国中1位、TIMSS2023(国際的な算数・数学の学力調査)の中2数学は世界4位。教育の入口は世界トップ5です。それなのに、注目度の高い論文(Top10%)の数は世界13位、シェアは1.5%しかありません。
TIMSS2023には象徴的な数字があります。「数学を使う職業につきたい」と答えた中2は、国際平均が約5割、日本は約2割。学力は世界4位なのに、です。できるけれど、やりたくない。
原因は、努力の見返りが18歳で打ち切られることにあります。新卒一括採用は大学の成績をほとんど見ないため、学部の成績が大学院を、大学院が就職を決める中国や米国と違い、競争が連鎖しません。企業が博士を採らないので、優秀な学生ほど修士で就職するのが合理的になります。
ただし、ここ数年で一つだけ明確に改善しました。博士課程の入学者は2025年度に16,000人、前年比+3.0%で3年連続の増加。長期にわたって減り続けていた指標が反転しています。
効いたのは経済支援です。2021年度に始まったSPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)が博士課程の学生に生活費相当額を支給するようになり、支援規模は1万人前後まで拡大しました。「授業料を払いながら3年間無収入」という最大の参入障壁が、一部の学生については外れた形です。
問題を三つの層に分けると、何が変わって何が変わっていないかがはっきりします。
- 在学中の生活費 ― SPRINGで明確に改善。進学者増という結果も出た
- 修了直後のポスト ― 2004年の国立大学法人化以降、運営費交付金は削られ続け、若手のポストは任期付きが常態化。むしろ悪化したまま
- 生涯にわたる処遇 ― 新卒一括採用と年功序列という本体が残るため、初任給を上げても、3年遅れて入社した分は生涯賃金で取り返せない
人口100万人あたりの博士号取得者は124人で世界6位。この指標が2000年代以降に長期低下していたのは、主要国の中で日本だけでした。3年連続増といっても、下がりきったところからの反発にすぎません。
そして、ここが中国との差の核心です。中国のAI人材が国内に残るようになったのは、中国が三つ目を用意したからです。給与も研究環境も国内で成立するようになった。
日本が一つ目だけを整えて二つ目と三つ目を放置すれば、育てた博士が国外の受け皿に流れるという、これまでより悪い形になり得ます。人材を育てる力が足りないのではなく、育てた人材が力を発揮できる場所を用意できていない。日本が向き合うべきなのは、教育改革よりも雇用と研究資金の設計です。人材を育てる競争は、すでに人材を留める競争に変わっています。
(本記事は『週刊 Life is beautiful』2026年8月18日号の一部抜粋です。「今週のざっくばらん」のその他の記事や「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナーなどメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です )
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