プロトタイプお披露目からわずか2年弱。イーロン・マスクがテスラ「Cybercab」で人類に見せた“未来社会の一端”

 

さらに重要なのが、「Unboxed Process」と呼ばれる新しい生産方式で、Cybercabではこれを本格導入しようとしています。従来の自動車工場では、フォード以来100年以上にわたり、車体を一本の長い生産ラインに流し、順番に部品を取り付けて完成させる方式が基本でした。これに対してUnboxed Processでは、車体をいくつかの大きなモジュールに分け、それぞれを並行して組み立て、最後に結合します。

テスラは、こうした生産革新によって、将来的には10秒未満に1台という驚異的な生産ペースを目指しています。すなわち、テスラが作り直そうとしているのは自動車だけではなく、「自動車の作り方」そのものなのです。

そして9月3日、このCybercabがついにテキサス州オースティンで一般客を乗せて走り始めましたが、懸念もあります。ハンドルもペダルもないCybercabが現在の米国の安全基準を本当に満たしているのかについて、米道路交通安全局(NHTSA)がテスラの自己認証の根拠を調査しています。前述したdry brake-by-wireやsteer-by-wireを含め、従来の自動車とは大きく異なる設計だけに、安全性と冗長性をどう確保するかは重要な課題です。

もちろん、現段階でCybercabの成功が約束されたわけではありません。しかし、ここでCybercabだけを見ていると、もっと大きな変化を見落とします。Google系のWaymoは、すでに米国で週50万回を超える完全自動運転サービスを提供していますが、完全無人での累積走行距離は2億2,000万マイルを超え、そこから膨大な実走行データを蓄積しています。Waymo自身が公表している分析によれば、同じ地域の人間のドライバーと比較して、重傷・死亡事故につながる衝突事故は94%少ないとされています。つまり、Cybercabに限らず、ロボタクシーは、もはや「未来の技術」の話ではありません。米国や中国を中心に、すでに巨大な社会実験が現実の都市で始まっているのです。

そして、そのWaymoが日本にもやって来ます。Waymo、GO、日本交通は、2027年中に東京で完全無人タクシーの商用サービスを開始することを目指し、段階的に100台規模まで拡大する計画を発表しました。自動車が自律走行するようになれば、社会は大きく変わります。スマホで呼べば無人の車が迎えに来ます。運転手がいないので24時間動けます。高齢者や免許を持たない人の移動の自由度も高まります。そして、深刻化するタクシーやバスのドライバー不足にも対応できます。

さらに利用料金が十分に下がれば、都市部では「そもそも自動車を所有する必要があるのか」というところまで話が進むでしょう。車通勤でもしていないかぎり、自家用車の稼働率は極めて低いといえます。駐車場代や車検費、税金、保険などの維持費も掛かる上、渋滞も多いので、コスパやタイパを気にする最近の若い人たちからすれば、車はすでに以前ほど所有欲を刺激するものではなくなっています。これからは、所有するモノというよりも、必要な時に利用するサービスという位置付けに変化していくかもしれません。いわゆるMobility as a Service(MaaS)の流れです。

では、日本はこのような変化についていけるのでしょうか。ここでは「使う側」と「作る側」を分けて考える必要があります。まず使う側では、日本も意外に早く変わる可能性があります。日本では2023年に道路交通法が改正され、一定の条件下で運転者のいないレベル4の「特定自動運行」を認める制度がすでに始まっています。政府も2030年度にバス、タクシー、トラックの自動運転サービス車両を1万台にする目標を掲げています。

したがって、「日本は規制が厳しいから自動運転が実用化されない」という指摘は必ずしも正確ではありません。問題は、制度を作ることと、実際に大量の車を走らせて事業化することの間に大きな乖離があることです。

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