自動運転AIは、実際の道路を走り、膨大なデータを集め、失敗を分析し、AIを改善し、再び道路に戻すという学習ループを高速で回すほど強くなります。たとえばWaymoは、前述のように完全無人ですでに2億2,000万マイル以上を走行しています。この「走る→学ぶ→改善する→また走る」というループの規模と速度で、日本勢は大きく後れを取っています。
しかも、政府は自動運転実証に補助金を出し、2026年度だけでも37事業を採択しています。しかし、各地で小規模な実証実験を繰り返すだけでは、何億マイルという実走行データを蓄積する米国企業にはなかなか追いつけません。重要なのは「実証実験を何件やったか」ではなく、「どれだけ実際のサービスとして走らせ、どれだけデータを蓄積し、どれだけ速くAIを改善できたか」ということです。
一方、「作る側」については、さらに深刻です。世界最大級の自動車産業を持つ日本ですが、東京で最初の本格的な完全無人タクシーを走らせようとしている頭脳はWaymoです。もちろん日本メーカーも手をこまねいているわけではありません。トヨタはWaymoと2025年4月に戦略的パートナーシップについて基本合意し、新しい自動運転車両プラットフォームなどの協業を検討中です。日産もWayve、Uberと組んで2026年後半から東京でロボタクシーの実証を始める計画です。ただし、当初は訓練されたセーフティーオペレーターが乗車することになっています。
これからの自動車産業の主導権を決めるのは、もはやエンジン性能や燃費、組み立て品質ではありません。AI、クラウド連携、半導体、ソフトウェア、走行データ、配車プラットフォーム、そしてCybercabが示すような新しい生産方式までを統合する力です。
海外で開発されたAIを搭載した車を日本メーカーが製造し、日本のタクシー会社が運行し、日本人が便利に利用する…。それでも日本社会としては十分に恩恵を受けられるでしょう。しかし、自動車が日本最大の基幹産業の一つであることを考えれば、それで十分というわけにはいきません。
将来、Elon Musk氏がかねて構想しているように、個人所有の自動運転車を、オーナーが使わない時間帯にロボタクシーとして稼働させられるようになれば、車が個人に新たな収入源を提供する可能性もあります。しかし、個人所有車の参入が認められず、既存のタクシー事業者だけに営業権が認められる制度になれば、こうした新しい経済的恩恵が広く個人に及ばない可能性もあります。
これからの自動車は、いわゆる車屋さんが従来作ってきたものとは別物となり、フィジカルAIの1つのジャンルとして生産方式も大きく変わります。そうなると、「ものづくり大国」として過去に蓄積してきた経験やノウハウが必ずしも生かせるわけではありません。10年後、「自動車」という言葉はいったい何を意味しているでしょうか。自動車産業を誰が再定義し、誰がAIとデータを握り、誰が世界の移動を支配することになるのでしょうか。
Cybercabは、2024年10月にそのプロトタイプが初めてお披露目されてから、わずか2年弱で、限定的とはいえ実際に一般客を乗せて営業運行するところまで来ました。Elon Musk氏が我々に見せてくれているのは、まさに未来社会の一端なのだろうと思います。
※ 本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年9月18日号の一部抜粋です。このほか、「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください。
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