もし誰かが意図的に、あなたの立場を貶めるような噂を流したとしたら、どのような対応をみせるでしょうか。同じ熱量で切り返したくなる気持ちも否定できませんがそれでは相手の思う壺、だからこそ一層冷静な対応が必要とも言えます。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、ある大型マンションの理事長による、事実に反する風評を跳ね返したクレバーな対応を紹介しています。
表で議論しないで陰で足を引っ張る理事の思惑は…
こんにちは!廣田信子です。
ある大型マンションのA理事長は、理事長歴10年を越えます。就任前、修繕積立金の運用失敗で大損をしたり、大規模修繕工事時に理事と業者との癒着が疑われたり…と、いろいろ問題があって、管理組合が荒れていました。そのころ、ちょうど現役としての第一線を離れたこともあって、何とか立て直そうと理事長になったのでした。数々の改革で管理組合運営の健全化を図り、今も、先駆的な取り組みをしています。
そうしたら、最近、突然、「理事長の長期政権が問題だ。業者との癒着がある」というような話が、どこからか流されるようになり、まわりまわって、A理事長や家族の耳にまで達するようになりました。どうも、一部の理事が、それを意図的に広めているらしいのです。
A理事長は、理事会で満場一致で理事長に選任されています。理事会での議論はオープンですし、過去の反省もあり、透明性を何より大事に運営して、そのことを一番よく知っているのは理事のはずです。各部長に一定の権限が与えられていますし、業者選定も常に明確な競争入札で行っています。
もし、何か問題があるというのであれば、理事会で提案すればいいし、飲みながらざっくばらんに話す機会も多いので、理事長に何か不満があるなら言える機会はいくらでもあります。でも、いっさい、そんな話はなく、普通に付き合っていて、陰で、理事長の足を引っ張り、理事会を貶めるようなことをするのはなぜか…です。
そんなことをされたら、そこまで言われて理事長を続けるつもりはない…と切れてしまいそうですが、相手は、それを狙ってやっていることだから、絶対にそれに乗ってはいけないと…A理事長は言います。
嫌気がさしたり、怒ってやめてしまったら、それは相手の思うつぼだ。表立って議論したいことも特にないが、理事長と言う権力はほしい…でも、それには、今の理事長が邪魔だから、そのためには、裏工作して、その人を陥れる…そんなことはサラリーマン社会ではよくあることだ…と。
こういうことをする人間は、権力を持ったら、必ずよからぬことを考えるから、絶対に、権力を持たせたらいけないんだ…。だから、それを阻止するためにも、自分がもうひと頑張りするしかない…と。
「長期政権で業者と癒着がある…」。これ、根拠もなく陰でささやきやすい陰口です。そんなひそひそ話がマンション内で伝わっているとしたら、ほっておくことはできません。理事会活動の信頼性にも関わりますから。
で、理事長がやったことは…陰で工作をしている理事を問いつめることでも、自分の正しさを主張することでもなく、より、ソフトに一般組合員に対する事実の広報に力を入れたのです。
情報を常にオープンにするために広報はこれまでも力を入れてやってきましたが、自分がどういう考え方で、これまでどのような事業を行ってきたかを改めて分かりやすくまとめたものを発行したり、自分の信念や人となりが分かるようなインタビュー記事を広報紙に載せたり…です。
理事会の中のごたごたにしないで、おかしな噂を聞いたかもしれない組合員に広く「説明責任」を果たしているのです。「説明責任」をあやふやにする国会議員より、ずっときちんとしていますよね。とても、戦略的で賢い理事長さんだと改めて思いました。やましいことがなく、信念があって、それをしっかり言葉にできる人は強いです。