地方公務員の“心を壊す”総務省が打ち出した「心のケア」という偽善

shutterstock_1782645857
 

頻発する災害や“災害級”の状況が長く続くコロナ禍において、最前線で対応に当たるのは、ほとんどの場合地方自治体の公務員の方々です。その公務員のメンタル不調による休職が増加していて、総務省は実態調査に着手し「心のケア」対策の道を探るそうです。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんは、地方公務員減らしや非正規公務員化を進め、激務かつ低賃金により疲弊する状況を今も生んでいる張本人の総務省が「心のケア」などと言い出したことに呆れ、先に手当てすべきことがあると訴えています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

時事ネタ社会問題に鋭く切り込む河合薫さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

“心のケア”という偽善

地方自治体の公務員たちの負担増加が止まりません。夏になれば豪雨、台風、冬になれば大雪、突風。地震は頻発しているし、1年以上にわたるコロナ対応やワクチン接種など、体も心もボロボロになりながら“現場”でふんばり、それでもいっこうに報われない仕事の連続に心と体が悲鳴をあげているのです。

2019年度にメンタル不調で1ヶ月以上休んだ職員は、10万人あたり1643人で、これは15年前より2.3倍も増加しています(地方公務員安全衛生推進協会)。休職者全体にメンタル不調者が占める割合は6割。10年前に比べ13ポイント増です。

また、地方公務員は1994年をピークに減らされ続け、現在、276万2020人で94年に比べ52万人も減少しました。しかも、非正規化が進められていて、いまや「3人に1人が非正規公務員」です。05年には全国で45.5万人でしたが、16年には64.3万人と11年間で18.7万人、41.1%も増加しているのです。

日本は先進国の中で「公務員」が圧倒的に少なく、賃金も最低レベルです。慢性的な人手不足、働けど働けど楽にならない、「蟹工船的働き方」をさせられてるのです。

そんな中、総務省が地方自治体のメンタル対策の実態を把握する調査に着手したことがわかりました。精神疾患が原因の休職者数や休職後の職員の様子のほか、予防策や職場復帰に向けた支援体制も尋ね、自治体と医師との連携、復帰支援の際に困ったことなど現場の実情を細かく集めるとされています。実態を的確にとらえて、職員の「心のケア対策」を探るそうです。

…心のケア。実に、便利で、美しい言葉です。問題が起こるたびに「心のケア」という美しい言葉が好んで使われますが、心のケアっていったいなんなのでしょう。

地方公務員の状況を考えれば、心のケアが「問題解決」につながる対策にならないことくらい誰にでもわかるはずです。自分が放った銃弾に当たった人たちに「手当をしなきゃ!」と今更慌てて、どうするというのでしょうか。

やるべきことは「銃弾を放つのをやめる」こと。メンタルを低下させる職員が相次いでいるのは、その銃弾を浴びながらも「目の前の仕事を市民の為にやらなきゃ」という現実があるからです。そういった戦場のような環境を改善もせず、銃弾に当たった人たちが「戻ってこれるようにしなきゃ!」と取り繕ったところで、新たな犠牲者を量産するだけです。

時事ネタ社会問題に鋭く切り込む河合薫さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 地方公務員の“心を壊す”総務省が打ち出した「心のケア」という偽善
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け