元祖シンガーソングライター、個性派俳優、そして小説家。異才・荒木一郎が明かす映画テレビ黄金時代の知られざる「素顔」

2023.01.23
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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「空に星があるように」「いとしのマックス」などのヒット曲で知られる日本のシンガーソングライターの草分け的存在であり、個性派俳優としても映画『893愚連隊』『日本春歌考』『白い指の戯れ』をはじめ、ドラマ「七人の刑事」「木枯し紋次郎」「悪魔のようなあいつ」にも出演した俳優・歌手、そして小説家の荒木一郎(79)。その荒木氏が昨年10月、名作『ありんこアフター・ダーク』(河出書房、のち小学館文庫)以来の半自伝的小説『空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館刊)を上梓した。

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空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館刊)

500ページを超える大作にもかかわらず、その興味深い内容に引き込まれ、気がつけばあっという間に読了。その小説には、吉永小百合や大原麗子など超大物女優との交友をはじめ、数多くのテレビ・ラジオなどの黄金時代を支えた芸能関係者が次々と実名で登場し、そのすべてのエピソードを詳細に記憶していたことに驚かされた。なぜ私小説という形で昭和の華やかな芸能界の知られざる「素顔」を描いたのか、いかにして名曲「空に星があるように」は生まれたのか、そして先の見えない時代に「人生で成功する秘訣」とは何か。とらえがたい魅力とミステリアスな感性で無二の存在を刻んだ俳優・歌手の荒木一郎氏にお話をうかがった。

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荒木一郎(あらき・いちろう):
1944年、東京都生まれ。歌手、俳優、作詞・作曲家、小説家。幼少より舞台やラジオドラマなどで活動。1966年、『空に星があるように』で歌手デビュー、日本レコード大賞新人賞を受賞。『今夜は踊ろう』『いとしのマックス』など数々のヒット曲を生み出し、シンガーソングライターの嚆矢となる。映画『日本春歌考』などに出演し、個性派俳優として評価を得る。小説家としても才能を発揮し、著書に『ありんこアフター・ダーク』(小学館文庫)、『後ろ向きのジョーカー』(新潮社)など。

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──この度は、お時間をいただきましてありがとうございます。今回の『空に星が〜』を読ませていただきました。60年代の映画テレビ黄金時代の裏側を詳細に描き切った内容で、ある場面ではうなずきながら、時にハラハラドキドキしながら、また深い感動をおぼえながら、「一本のドキュメンタリー映画」を観るような思いで読ませていただきました。この本の中に、高校生だった当時つけていた日記を、女性からの要望で燃やしてしまうというエピソードが出てくると思うのですが、ここまで詳細に書けるということは、当時からずっと日記をつけていたからなのでしょうか?

荒木一郎(以下、荒木):たしかに燃やしたあとも日記をつけていたことがあるんだよ。それがあったら良かったんだけど、普通の日記帳じゃなくて、本屋さんが小説を予約させる時用に使う、最初の数ページだけ印刷されていて残り300ページくらいすべて白紙になってるぶ厚い見本版に日記を書いてたの。で、前の家から今住んでいるこの家を建てるために仮住まいに引っ越すときに「いらない本とか全部売っちゃった方がいいよね」って、その日記ごと全部売っちゃったわけ。だから、日記は一冊も残ってないんだよ。「あれが残っていれば面白かったのにな」って思うんだよね。

──ということは、逆に日記をまったく保存していないにも関わらず、あれだけ詳細に60年以上前のことを覚えていたということですね。

荒木:そうだね。たまたまとっておいたノートが一冊だけあったの。それは日記じゃないんだけど、そこに手紙が挟んであって、本の中にも手紙の話が出てくるんだけど、手紙の文面をそのまま載せているのは、その手紙があったからなんだよ。あとは、当時あった僕のファンクラブの会報が残っていて、それが参考になったんだよね。あとは新聞記事もあったから、自分が記憶していないことは新聞記事から引っ張って書いたところもあるよね。それをデータとして使って、あとは文章として組み立てるようなことはやってます。

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荒木一郎氏の自宅にて

──つまり客観的な目から見た出来事などは、当時のメディアから参考にして、自分目線のエピソードはご自身ですべて覚えていたということですね。

荒木:そうだね、ただ新聞に書かれていることと現実は違うわけで、現実の方は自分が覚えているわけだから。もちろん、ここに書けなかった話はもっとたくさんあるわけで、とてもじゃないけど書ききれないし、書きすぎても訳がわからなくなっちゃうから。本を書くときというのは群集劇的になることが多いんだけど、あまり自分の心情を書くことが好きじゃなくて、「人」、つまり他人のことを書きたくなるんですよ。やっぱり「人のことを紙の中に残してあげたいな」と。その時に出会った人があってこそ今の自分があるんだから。

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