修復不能と見られていたイランとサウジアラビアの国交回復を仲介し、世界を驚かせた中国。なぜ中国政府はこの難題を解決することが出来たのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、両国の北京合意を「中国が続けてきた国際紛争を対話で解決する努力の結果」と高く評価。その上で、習近平氏のモスクワ訪問によるウクライナ戦争の停戦という成果に期待を寄せています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年3月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
この殺伐世界に「対話の力」を蘇らせよう/王毅=中共政治局員の新たなイニシアティブに注目
中国が仲介してイランとサウジアラビアが外交関係を正常化することで合意したという3月10日のニュースは、少々大袈裟に言えば、世界史的な事件である。
第1に、複雑骨折化した中東政治を解きほぐして和平を推進していく外交能力はもはや米国にはなく、中国がそれにとって代わって全体構図を塗り替えるような調整役を果たしつつあるという、21世紀的な現実がはっきりと姿を現した。北京で年に一度の全人代が開かれ世界の注目が集まる中、サウジのアイバーン国務相兼国家安全保障顧問とイランのシャムハーニー国家安全保障最高会議書記とがそれぞれ率いる両政府代表団を招き、間に王毅が立って記念写真を撮るというこの演出は、なかなかに効果的なものだった。
もちろんこれは唐突なことでなく、「グローバル安全保障イニシアティブ」と称して米欧の独善主義に反対する多数派形成を目指している中国が、中東においても地道に地歩を築いてきたことの結果であって、実際には22年12月の習近平サウジ訪問によるサルマン国王、ムハンマド皇太子との会談、今年2月のイランのライシ大統領の北京訪問による習との会談を通じて方向づけられていたことである。
それに対して米国は、〔前号でも触れたが〕1978年9月にカーター大統領がメリーランド州キャンプデービッドの山荘にエジプトのサダト大統領とイスラエのベギン首相を招いて両国の平和条約締結を仲介して以来の四半世紀、この地域の平和を促すような目覚ましい外交的成果を何一つ上げていない。
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2015年7月のイランと米英仏独露中6カ国との「イラン核合意」達成はオバマ大統領の業績だが、3年後にトランプ大統領がこれを一方的に破棄・離脱してブチ壊した。バイデンは同合意の再建を公約しているが、イランの最高指導者の近衛軍団「革命防衛隊」をトランプが「国際テロ組織」に指定した措置をそのまま引き継いでいることなどが障害になって、思うような進展がない。
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