プーチンの暴走を止められるか。イランとサウジを仲介した中国の底力

 

外交・安保の「習近平ドクトリン」

さて、ここで王毅が国連憲章の原則を強調しているのは、ただの思いつきではなく、習近平が22年4月のボアオ・アジア・フォーラム年次総会の開幕式で演説した「グローバル安全保障イニシアティブ」6項目を下地にしたものである。これを報じた人民網日本語版22年4月21日付によると、外交・安保についての「習近平ドクトリン」とも言うべき6項目は、次のとおりである。

  1. 共通、総合、協調的、持続可能な安全保障という考え方を堅持し、世界の平和と安全を共同で維持する。
  2. 各国の主権及び領土的一体性の尊重を堅持し、他国の内政に干渉せず、各国の人々が自ら選択した発展路線と社会制度を尊重する。
  3. 国連憲章の趣旨と原則の遵守を堅持し、冷戦思考を捨て去り、一国主義に反対し、ブロック政治や陣営対立を行わない。
  4. 各国の安全保障上の合理的懸念の重視を堅持し、安全保障の不可分性の原則を堅持し、均衡の取れた、実効性のある、持続可能な安全保障構造を構築し、他国の安全を犠牲にした自国の安全構築に反対する。
  5. 国家間の溝や紛争の対話と協議を通じた平和的方法による解決を堅持し、危機の平和的解決に資するあらゆる努力を支持し、ダブルスタンダードを採用してはならず、一方的制裁や管轄権の域外適用の乱用に反対する。
  6. 伝統的・非伝統的領域における安全保障の統合的維持を堅持し、地域紛争やテロ、気候変動、サイバーセキュリティ、バイオセキュリティなどグローバルな問題に共同で対処する。

習は冒頭「冷戦思考は世界平和の枠組みを損なうだけであり、覇権主義とパワー・ポリティクスは世界平和を危うくするだけであり、ブロック対立は21世紀の安全保障上の問題を激化させるだけである」として、これを提起した。これを受けた中国外交部報道官の22日付会見での説明では、

▼一国主義、覇権主義、パワー・ポリティクスの脅威が増大し、平和、安全、信頼、ガバナンスの欠損が拡大し続ける現在、人類社会の直面する安全保障分野の試練と問題はますます増加し、厄介なものになってきているようだ。

▼このような時代的背景の下、習主席は全人類の前途命運の観点から、グローバル安全保障イニシアティブを打ち出した。これは中国が提供する新たな国際公共財であり、人類運命共同体理念の安全保障分野における生き生きとした実践だ。

……ということになる。

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