従業員をゼロにした美容室で聞いた、今の時代に「雇用すること」の厳しさ

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人材不足が深刻化し、賃上げや雇用を国が促進している状況ですが、経営者としては新たな雇用を避ける方向を考えても仕方がない事態になっているようです。メルマガ『『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』の著者である吉田さんは、行きつけの美容室の経営者から「決心」を聞き、今の時代に雇用することの厳しさを綴っています。

雇用することの厳しさ。なるべく人を雇わずに回していけるビジネスモデル

私の行きつけの美容室が、何年か前に、従業員の雇用を完全にやめました。

美容室といえば粗利100%で儲かりそうなイメージですが、とんでもありません。

美容室は全国に26万件以上あり、その分、1軒あたりの売上高はそこまで大きくありません(一説によると、美容師1人あたりの平均売上高は49万円/月だとか……)。

この美容室の場合、コロナ前まではオーナーのほかに従業員が3人いて(美容師2、アシスタント1)、月の売上高は200万円ほどでした。

が、家賃が27万円、3人分の給料が100万円、社会保険料の会社負担分が15万円、水道光熱費10万円、広告宣伝費9万円、ほか通信費、雑誌代、支払手数料、税理士費用などの諸経費が15万円以上、合計すると月176万円以上の費用がかかっていましたから、そこから引き算したオーナーの生活費は、毎月24万円以下という状況が長く続いていたようです(もっとひどかった時は、店内の椅子や器具のリース料もかかっていたようです)。

そこでオーナーは、従業員の1人が独立したのを機に、もうひとりの従業員にもそこへ移籍することを促して(つまり辞めていただき)、オーナー1人だけの体制に変えました。

オーナーは60歳。お子さんは既に社会人です。これからは、「経営」で頭を悩ませるよりも、「個人事業」で細々と美容室を続けて食っていければいい。そう結論づけたのです。

現在、オーナーは家賃9万円の狭い物件に移転し、一人で美容室を切り盛りしています。完全なワンオペです。

自分の生活費は(持ち家で住宅ローンがないので)夫婦2人で30万円あれば足ります。店を小さくしても、古くからの常連さんは来てくれるので、売上は月65万円以上はあります。

現在の収支は、売上65万に対して、家賃9万円、水道光熱費3万円、広告費ゼロ、その他の諸経費8万円 ⇒ 手残り45万円以上という感じで、ここからオーナー自身の社会保険料や税金を引いても、経済的にはすっかり余裕が出てきたようです。資金調達を考える必要もなくなりました(あとは万一体調を崩したときのバックアップ体制が課題ですね……)。

以上はほんの一例ですが、昨今、社会保険料の負担がここまで増えてしまうと、この美容室オーナーと同じように考える経営者が増えてもおかしくないでしょう。

・美容室なら、ワンオペ化するか?あるいはスタッフを雇用せず業務委託するか?

・建設業や製造業なら、内製化を避けて、外注さんに頼るか?

・会計事務所や法律事務所やコンサルなら、事務員だけ雇用して、知的作業をAIに任せるようにして人を最小限にとどめるか?

・サラリーマンをやめて起業する際も、かっこつけて法人成りせず、しばらくは個人事業主としてスモールビジネスに徹するか? 

と、なるべく人を雇わずに回していけるビジネスモデルを考えそうです。

いくら国が「賃上げ」「雇用促進」を促し、中小企業向けの補助金の審査で「賃上げ加点」などの特典を与えても、経営者にとっては、いちど従業員を雇ったら切るのは大変、いちど賃上げしたら賃下げは大変というのが現実ですから、なかなか「雇用する」決心が固まりません。

昔以上に、雇用することに対して、一大決心が必要になってしまっているのです。

(こんなに厳しい経営環境の中で、積極的に人を雇用しようとしている会社もありますが、そんな経営者の方々を、私は心から尊敬します)

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事業再生コンサルタント。認定事業再生士(CTP)。特に倒産寸前の中小企業、零細企業、自営業の自力再生(のサポート)を最も得意としています。著書『震災後に倒産しない法』(サンマーク出版)、『借金なんかで死ぬな!』(朝日新聞出版)、『連帯保証人 なってみたらすごかった でもまだ手はある』(ワニブックスPLUS新書)、『ブラックリストなんて怖くない』(宝島社)、『働けません。』(三五館)ほか多数。1968年東京生。乙女座A型。趣味は自転車、魚釣り等。無類のネコ好き。

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【著者】 吉田猫次郎 【月額】 ¥528/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 10日・20日・30日 発行予定

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