あの中島聡も納得。「AIに新しいものを作らせるな」世界最高峰の数学者が語る、AI時代に“人間がやるべき仕事”の本質

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世界最高峰の数学者テレンス・タオらが発表した論文「AI時代に人間の知的活動はどうあるべきか」が大きな議論を呼んでいます。印刷術やインターネットが「広める」ことを自動化したのに対し、AIは「作る」プロセスそのものを自動化しつつあり、これは根本的に違う変化だとタオらは指摘します。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著名エンジニアで投資家の中島聡さんが、この示唆に富む論文を紐解きながら、AI時代における人間の知的活動のあるべき姿、そして私たちが持つべきバランス感覚について解説します。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

AI時代に人間の知的活動はどうあるべきか

Mathematical methods and human thought in the age of AI 

世界最高峰の数学者と言われるテレンス・タオらが、「AI時代に人間の知的活動はどうあるべきか」というテーマで書いた論文です。数学という分野を題材にしていますが、議論の射程はもっと広く、AIと人間の関係そのものを深く考えさせられる内容です。

AIは「作る」プロセスを自動化する

論文の出発点はシンプルです。印刷術、インターネット、LaTeX(論文を書くためのソフトウェア)といった過去の技術は、人間が作ったものを「広める」ことを自動化しました。しかし今のAIは、「作る」プロセスそのものを自動化しつつあります。これは根本的に違う変化だ、というのがタオらの認識です。

数学の世界では、AIはすでに複雑な証明を生成できるようになっています。しかしタオは、そこに面白い問題があると指摘します。経験豊富な数学者は、証明を読んだとき「なるほど、だからこうなるのか」という直感的な理解(タオはこれを”smell test”=嗅覚テストと呼んでいます)を得ます。ところがAIが生成する証明は、形式的には正しくても、この「匂い」がない。なぜその定理が成り立つのかという深い理解を与えてくれないのです。

AI活用の3段階とコペルニクス的転回

これを踏まえてタオらは、AIの使い方を3段階で整理します。短期的には「バニラ・エッセンス(バニラの風味づけ)」のように使うべきだと言います。少量なら料理の風味を引き立てるけれど、入れすぎると台無しになる。AIも同じで、文章の校正や構成の整理には役立つけれど、核となる内容は人間が考えるべきだということです。中期的には「レッドチーム(検証・テスト役)」として使う段階に入ります。人間が作ったものをAIに検証・批判させる使い方です。ポイントは、AIに「新しいものを作らせる」のではなく、「人間が作ったものをチェックさせる」という方向性です。

長期的な議論がもっとも哲学的で面白い部分です。タオらは3つの極端な立場――1. 数学は記号操作にすぎないという形式主義、2. 人間の知性にはAIに欠けた「魂」があるという本質主義、3. 人間の認知はAIに置き換えられるべきだというAI至上主義――をいずれも退け、「コペルニクス的な見方」を提案します。かつて天文学で「地球は宇宙の中心ではない」と認めても地球を大切にすることに変わりはなかったように、「人間の知性は特別な存在ではない」と認めた上で、それでも人間の利益を最優先にすることは矛盾しない、という立場です。

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