【発想源】ベテラン声優・大塚明夫が語る、声優業界の厳しすぎる現実

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声優として30年以上のキャリアを持つ大ベテラン・大塚明夫氏。メルマガ『ビジネス発想源』の筆者・弘中勝さんは、その大塚氏による話題書『声優魂』を引き合いに、“甘い考えを捨てること”の大切さを訴えます。

甘い考えを捨てる

最近読んだ本の内容からの話。

声優・俳優の大塚明夫氏は、スティーブン・セガール、ニコラス・ケイジ、デイゼル・ワシントンなどの洋画吹き替え、アニメ『攻殻機動隊』『ブラック・ジャック』、ゲーム『メタルギア』のソリッド・スネーク役など、数多くの代表作を持つベテラン声優である。

大塚明夫氏は、これまで多くの声優志望者や若手声優が次々に夢破れて、この世界を去っていくのを見てきており、「声優だけはやめておけ」とアドバイスする。

声優の仕事は、業界特有の報酬形態で、普通にやっても簡単に稼げない上に、自分で営業ができない個人事業主のようなもので、収入が不安定だからローンを組むこともできない。

それなのに、なぜか近年は声優を目指す若者が増え、300脚しかない椅子を常に1万人以上が奪い合い、さらにそこに多くの志望者が目指すという特異な状況になっている。

声優を目指す若者で多いのが、「まずは声優専門学校に行って、そして養成所を経て声優プロダクションへ」というルートが常識だと思っている人である。

しかし、大塚明夫氏をはじめとするベテラン声優、そして今スター街道を発している若手の中でも、そういう経歴を持つ人はほとんどいない

それなのに多くの声優志望者が、それが「より安全で確実な道」だと思って、声優専門学校に2年間通うものだと頑迷に思い込む

大塚明夫氏が所属する声優プロダクション、マウスプロモーションの納谷僚介社長が、あちこちの専門学校に講師として呼ばれるたびに、

「声優として売れるにはいろんな入口や方法があり、専門学校に入らなきゃいけないなんて決まりはない。学校に何年も通う時間があるのならむしろ、うちの事務所の門を直接叩いて、『ボイスサンプルを聞いてください』って言えばいい。少なくともうちではそういう方法でデビューして売れた子がたくさんいますよ」

という話をするが、この話をするようになって5年、こうして事務所に連絡をしてきた生徒はまだ一人もいないという。

そして、若手声優や声優志望者達には、「いい声」にこだわっている人がいる。

「大塚さんはいい声だからいいですよね。僕なんて……」ということを若手の同業者から聞き飽きた大塚明夫氏は、「声優とは、いい声を出すことに価値がある」という考え方は間違っている、と語る。

声優の仕事は「声づくり」ではなく、「役づくり」

映画だろうがアニメだろうが、声優が声をあてるのは、その作品世界に登場するキャラクターたちであり、そのキャラクターの役割とパーソナリティを表現しえる、最適な芝居をすることが声優の仕事。

そして、セリフを通して、観る人に、「このキャラはもしかしたら本当にいる人かもしれない」と錯覚させるぐらいのアプローチをしなければならない。

「普通じゃない声でしゃべる」ということだけだったら、素人だってできることで、そんなことは役づくりではない。

芝居をした結果「声がいい」と言われるのはいいが、「いい声を効かそう」と思って芝居したらダメだ、という単純な話なのである。

そういう誤った考え方が若手に蔓延している状況だから、今のように若手が次々に業界に入ってきても、自分の仕事が途絶えることはない、と大塚明夫氏は述べている。

>>次ページ “甘い考え”はこうして捨てるべし

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