日本、過労死ね。残業「月最大100時間」合意を新聞はどう伝えたか

uttii20170314
 

残業時間の上限「月100時間の壁」を巡り対立を続けていた経団連と連合ですが、13日、両団体の会長と首相官邸で会談した安倍総理は「月100時間未満」とするよう要請、連合サイドに軍配を上げた形となりました。しかし、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんは「繁忙期の1カ月とはいえ、月に100時間の長時間労働にお墨付きを与えてしまった」と批判した上で、新聞各紙のこの件の報じ方を詳細に分析しています。

長時間労働の事実上の是認か?「月100時間で決着」した残業時間の上限規制について、各紙はどう報じたか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「東芝、決算発表再延期へ」
《読売》…「残業『月100時間未満』で決着」
《毎日》…「退位特例法 17日合意」
《東京》…「残業『月最大100時間』合意」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「防衛相と森友 疎遠? 旧知?」
《読売》…「政治決断 連合に配慮」
《毎日》…「過労死防止は不透明」
《東京》…「原発避難集団訴訟 17日初判決」

ハドル

「残業時間の上限規制」の決着のさせ方には「演出臭がプンプンします。ほとんど無意味な「対立」を安倍氏の一言で裁定する、それも労働組合寄りに裁くように見せかける演出です。ところが、ちょっと考えれば分かることですが、長時間労働を規制するはずが、繁忙期の1カ月とはいえ、月に100時間の長時間労働にお墨付きを与えてしまった。さて、この問題を、各紙はどんなふうに伝えているのでしょうか。見てみることにします。今日のテーマは…、長時間労働の事実上の是認か? 月100時間で決着した残業時間の上限規制について各紙はどう報じたか、です。

基本的な報道内容

経団連の榊原会長と連合の神津会長は、焦点となっていた、「長時間労働是正に向けた残業時間の上限規制」について、繁忙期は月最大100時間を基準として法定することで合意した。両氏と会談した安倍総理は、月100時間未満で合意するよう求めた。

政府はこの合意を受け、労働基準法を改正、同法36条に基づく労使協定で可能となる残業時間の上限について、残業は原則月45時間年360時間」とし、繁忙期の特例的な上限として「月100時間を基準値とすること、また、2~6ヶ月間の平均を80時間以内に、さらに、年720時間(月平均60時間)以内、さらに月45時間超は年に6カ月まで、とする。違反には罰則を科す

また、退社から次の出社までに一定の休息時間を確保する「インターバル制度については、全面的な導入を見送った。他方、その普及に向けて有識者検討会を設置し、法令で企業に努力義務を課す。

「月100時間、2カ月平均80時間残業」を上限とすることについて、電通の新入社員で過労自殺した高橋まつりさんの母は、「全く納得できないと強く反発。「人間の命と健康に関わるルールに、このような特例が認められていいはずがありません」とコメントした。

首相の「裁定」

【朝日】は1面左肩と7面の関連記事。まずは見出しを。

1面

  • 残業「月100時間未満」へ
  • 繁忙期上限 労使に首相要請

7面

  • 残業上限 首相が「裁定」
  • 「過労死容認」批判 回避狙う
  • 「月100時間残業 強く反対」
  • 電通過労自殺 高橋まつりさん母

uttiiの眼

見出しにも表れているように、《朝日》は、労使の合意によって事実上決まった「残業時間の上限規制」の4つほどある条件のうち、「繁忙期でも月100時間の1点に注目、経営側は「100時間」、労働側は「100時間未満」という微妙なに報道価値を見出したかのような書き方になっている。

7面記事でもその点は引き継がれ、なぜそうなのかについて、背景が語られている。例によって、《朝日》の記事は話が行ったり来たりするので、翻訳が必要になるのだが、要するにどういうことかというと…。

もともと、「繁忙期の上限月100時間」を基準に規制する点で労使双方は一致していた。政府と経団連とすれば本当はやりたくないが、今回は「上限規制」止むなしとして、ならば「100時間」で通そうというわけで、政府案が公表された。しかし、民進党など野党が「100時間まで働かせていいということは、過労死ラインまで働かせていいとお墨付きを与えるもの」との批判が噴出、遺族の団体も同様の批判を強めた。国会で、「政府は過労死を容認していると言われたくないため、結局は、労働側が強く主張する100時間未満に揃えることになったと。

以上の内容は、さも、大事な政治的妥協がなされたかのように書かれているのだが、7面記事の最後の5行では、こんなことを言ってしまっている。

だが、そもそも「過労死ライン」ギリギリまで残業できる規制に対する働き手の疑問の声は根強く、批判はやみそうにない。

全くその通りだが、だとすれば、1面と7面の記事を使って「100時間」と「100時間未満」の「攻防」を描いてきたことにはどんな意味があったのか。ちょっと考えれば分かることだが、「100時間」規制で守れない働き手の命が、「100時間未満」と法律に書き込まれただけで急に守られるようになるはずはない。いずれも、長時間労働を是認するまやかしの規制に過ぎない

そもそも100時間を「過労死ライン」と呼ぶのは何故かと言えば、それは、労災認定の際に、過労死との因果関係を判定する基準の1つで、「発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合に労働災害を認めるという、クリティカルな数字だからであって、その100時間がたとえ「100時間未満」と書き換えられたとしても、その、人の命を危機に陥れかねない凶暴さにおいては、ほとんど違いはない。それに、残業をさせる側は、繁忙期1ヵ月におけるある労働者の残業時間が、99時間59分になるよう記録をコントロールするかもしれない。この場合、「未満」という限定に、人の命を救う力はない。だから、野党が「過労死ラインまで働かせていいのか」と批判するのは誠に正しいと言わなければならない。

高橋まつりさんのお母さんが「月100時間残業を認めることに、強く反対します」と抗議の意志を滲ませた発言をされているのを見れば、少なくとも、安倍氏による裁定などには何の意味もないということが分かるだろう。

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