【アメリカ大統領選】弟ブッシュはヒラリーの対抗軸たりうるのか

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大統領選始動、ジェブ・ブッシュ出馬宣言の意味を確認する

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第45号(2015/01/06)

2016年の大統領選へ向けて早速各候補が動き出しました。年明けの動きとしてはまず共和党の方が活発です。

まず注目されるのは、ジェブ・ブッシュ氏が「立候補検討委員会」の設立を表明したという動きです。予想外に早期に積極的に動き始めた背景には、オバマの民主党との「ヒスパニック票の争奪戦」という事情があります。

ジェブ・ブッシュといえば、父と兄が大統領であったわけで、仮に2016年に当選したら「ブッシュ王朝」が生まれるなどという批判を浴びているわけで、そうなるとアメリカは「保守王国」になる、そんなイメージで語られているように思います。ですが、このジェブという人の本質は実は極めて穏健で、中道実務家と言っていいと思います。

奥さんはメキシコ人、つまりメキシコ系移民の子孫のアメリカ人ではなく、メキシコ人だった女性であり、夫婦の会話はスペイン語であるようです。フロリダ州知事時代からそうですが、ヒスパニック系には絶大な人気があります。

政治的にも社会価値観に関しても極めて穏健な態度であるばかりか、兄のジョージ・W・ブッシュと比較すると知的で思慮深い話し方をするなど、「3人目のブッシュだからどうせゴリゴリの保守だろう」と思うと、全く違うのです。

さて、このジェブですが、どうして早期の「事実上の出馬宣言」となったかというと、共和党内の特殊事情があるのです。先ほど、ジェブは「穏健で中道」だと申しましたが、実はこれは「本選で中道票を取る」には大変にいいのですが、「共和党の予備選で勝利する」特に今から1年後の「アイオワ」とか「ニューハンプシャー」などで勝利して勢いに乗るには、困難があるのです。

つまり「共和党の大統領候補として突っ走るには保守性が足りない」というわけです。実はジェブの支持率は宣言以降しっかり上昇して「10%前後で5人が横並び」という状態から一気に「15%」を超えて堂々「フロントランナー」になっています。ですが、これはあくまで中道的な票も含めた全国の数字であり、予備選の初期段階を突破するのは簡単ではないと思います。

ですから、ジェブとしては一気にここで勢いをつけて「全国区人気を確立」するとともに「本選でヒラリーを破ることのできる唯一の候補」というイメージを作りたいのだと思います。それが早期に「宣言」に至った背景です。

一方で、面白いのはジェブと正反対の「宗教保守派のシンボル」とも言えるマイク・ハッカビー氏(元アーカンソー州知事)も動きを見せているということです。ハッカビー氏は長年努めた保守系のTV「FOXニュース」のキャスターを降板しているのです。これも大統領選を意識した動きに他なりません。

中道でヒスパニックに強いジェブ・ブッシュに対抗するために、白人の宗教保守派に極めて強いハッカビーも早期から運動を開始していこうというわけです。その中には、少々気の早い見立てですが「最終的には副大統領候補も視野」という計算もあるかもしれません。

ブッシュ兄弟の父、ジョージ・H・W・ブッシュが1988年に勝利した選挙戦で「自分が中道的だという批判」を浴びる中で「保守票を獲得するため」のパートナーとして、ダン・クエールを副大統領候補にして成功したという先例が重なって見えます。

しかも、ハッカビーはクエールよりは候補として「まし」ですから、ものすごく先走った見方ですが「ジェブ=ハッカビー」のチケットというのも面白いかもしれません。ただ、現在は2016年で投票は2016年、もう2020年代も間近という時点で、白人のそして決して若くない男性二人の「ジェブ=ハッカビー」というコンビは、相当に「古風」に見えます。

ただ、仮に2015年から16年にかけて、世界の政治経済の均衡と小康が崩れて「大激動の時代」となった場合は、アメリカはこうした保守的なチョイスを選択するということは十分にあると思います。

そうした「保険」がかけられるところは、アメリカという大きな社会の強みであるかもしれません。

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第45号(2015/01/06)

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業(修士、日本語教授法)。福武書店(現、ベネッセ・コーポレーション)、ベルリッツ・インターナショナル社、米国ニュージャージー州立ラトガース大学講師を経て、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を毎週土曜日号として寄稿(2001年9月より、現在は隔週刊)。「Newsweek日本版公式ブログ」寄稿中。NHK-BS『cool japan』に「ご意見番」として出演中。『上から目線の時代』『関係の空気 場の空気』(講談社現代新書)、『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』『アメリカは本当に貧困大国なのか?』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。
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