【イスラム国】悪夢の始まり、有志国連合と“同格”となった日本

高野孟http://www.mag2.com/m/0001353170.html
 

安倍首相の軽率が招くテロの恐怖

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.171より一部抜粋

日本はとうとう、対「イスラム国」空爆作戦を展開している米国中心の有志国連合の諸国と“同格”の敵と判定されてしまった。後藤健二を殺害したことを知らせる1月31日の映像で、「イスラム国」の黒装束の男は次のように声明した。

「日本政府へ。お前たちは邪悪な有志国連合の愚かな参加国と同じく、我々がアラーのご加護によって権威と力を備えたイスラム教カリフ国家であり、お前たちの血に飢えた軍隊であることを理解していない。アベよ。勝てもしない戦いに参加するというお前の無謀な決断のせいで、このナイフがケンジを殺害するだけではなく、お前の国民を見つければどこにいようと大虐殺を引き起こしていく。日本にとっての悪夢が始まる」

これはまさに悪夢の始まりで、シリアやイラクなどの戦地に無闇に近寄らないようにしようなどという話ではなく、世界中どこでも、日本国内であってさえも、日本人であれば誰でも、この血に飢えた狂気の集団によって首を掻かれかねない恐怖を背負って生きなければならないことになった。

「イスラム国」がそのように日本を敵と判定した理由ははっきりしていて、1月17日に安倍晋三首相がエジプトで演説して

「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」

と述べたからである。「イスラム国の脅威を食い止める」ためにそれと「闘う周辺各国を支援する」というその言葉を、「イスラム国」側が宣戦布告と受け止めるのは当然で、そのため「イスラム国」は20日の最初の湯川遙菜と後藤の殺害予告映像で

「日本はイスラム国から8500キロも離れていながら、自ら進んで十字軍へ参加した。おまえはわれわれの女性や子どもを殺害するために、またイスラム教徒の家を破壊するために、得意気に1億ドルを提供した。だから、この日本人の命の値段は1億ドルだ。また、イスラム国の拡大を止めようと、イスラム戦士と戦う背教者を訓練するために、さらに1億ドルを提供した。だから、このもう一人の日本人の命も1億ドルだ」

と、ピタリ2億ドルの身代金を要求した。昨年来、日本人2人が「イスラム国」によって拘束されていることを百も承知であるはずなのに、ここでわざわざ「イスラム国」を名指ししてその脅威を「食い止める」とか「闘う」とかを口にすることのリスクは、安倍なんぞが分からないのは当然だが、外務省の中東プロは一体どう考えたのか、検証が必要になろう。

また、それに対する反論と警告を、安倍がイスラエルで、イスラエルと日本の国旗が両脇に立つ会見場で行うというのも、どういう判断だったのか。小川和久はネット上で、公式会見の席上に国旗が立つのは当たり前で、別に他の中東諸国もそれに反発している訳ではないので問題ないというようなことを言っているが、それは違う。「イスラム国」のような常軌を逸した凶悪集団と電波を通じてやりとりする情報戦を闘うのに、イスラエル国旗を背にして言葉を紡いで、それがどう受け止められるか考えもしないというのは、ほとんど白痴的である。しかも、先週のインサイダー(No.769)で詳述したように、日本はすでにイスラエルとの軍事技術協力に深く踏み込んでいて、アラブ・イスラム圏の人たちはそのことをよく知っている。

加えて、日本政府が急遽、ヨルダンに現地対策本部を設置して、そのヘッドに中東訪問随行中だった中山泰秀=外務副大臣を貼り付けたというのはどうだったのか、これも検証マターである。

安倍の中東訪問に随行していた飯島勲=内閣参与が「週刊文春」2月5日号のコラムで書いているように、中山は父=正暉から日本イスラエル議員連盟を受け継いだ著名なイスラエル・ロビーで、アラブからは評判が悪い。ヨルダンは親日国で話が通じやすいと思ったのかもしれないが、同国は有志国連合に加わって「イスラム国」への空爆に参加していて、この場合の仲介役としては相応しくない。案の定、「イスラム国」側はこれ幸いと、ヨルダンで服役中の爆弾テロ犯人=サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放を要求してきて、そうなるとヨルダンとしては、日本の一民間人の救出のために重要犯人を釈放したのでは何のプラスにもならないから、「イスラム国」に捕らえられているヨルダン人パイロットの釈放を条件に持ち出して、話はこんがらかってしまった。このパイロットは、「イスラム国」空爆に参加して墜落、捕らえられた。

日本としては、パイロットはどうでもいいから、死刑囚と後藤の1:1の交換に応じてくれとは言えない。「イスラム国」としては死刑囚は取り返したいが、パイロットと後藤では1:2の交換になるからおいそれとは応じられない。そうするとヨルダンとしては、死刑囚とパイロットの1:1ではどうかという取引に傾いていく。そこで日本は、推測するに、裏でヨルダンと「イスラム国」に金を払って1:2の不均衡取引を成り立たせようとしたのだろう。しかし時間切れ。飯島が言うように、トルコに仲介を依頼するのがマシだったはずで、トルコは有志国連合には加わらずに一応、中立的なポーズを保ちつつ、しかし「イスラム国」との国境地帯に戦車部隊を配置するなど独自に軍事的圧力をかけ、裏では「イスラム国」といろいろ取引するという、二枚腰、三枚腰の巧みな対応を続けているので、多少とも交渉が成り立つ余地があったかもしれない。

それにしても、「イスラム国」のテロの脅威から日本政府が国民の命を守る上で無力であることがはっきりした訳で、自分の命は自分で守るしかないというのがこの出来事の後の何やら寂しい結論である。

 

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.171より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。2002年に早稲田大学客員教授に就任。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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