米連銀が年内の資産縮小を画策している。私はこのカネ余り相場の終焉が、さらなる格差拡大に繋がる可能性があると見ている。日本株への影響もまじえ解説しよう。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
※矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』好評配信中!ご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
資産縮小へ向かうFRB。それでも日本株高、格差拡大の理由とは
米連銀、バランスシート縮小の開始時期を9月に発表
7月4日付けのウォール・ストリート・ジャーナルは、「米連銀はバランスシート縮小の開始時期を9月に発表するつもりだ」と報じた。また発表した場合には、12月まで利上げは見送り、金融市場の反応を見るという。
9月に開始すべき理由としては、米国経済が堅調に推移していることに加え、イエレン議長の任期が来年2月に切れるため、任期切れ直前の開始は避けるべきだとの見方があるためだとされる。
米連銀バランスシート縮小は、4月5日発表の「3月のFOMC議事録」で、4.5兆ドルの債券残高の縮小を、多くの政策委員が2017年内に始めるべきだと提言したとされていた。
4.5兆ドル規模に膨れ上がったバランスシート
米連銀は、2007年8月のサブプライムショックを受け、9月から利下げを開始した。しかし、2008年9月のリーマンショックを防げなかったことから、11月からは債券購入による量的緩和を開始、バランスシートをそれまでの0.8兆ドル規模から4.5兆ドル規模にまで膨らませた。
バランスシートの拡大は2014年末で終了。2015年末からは小幅ながら利上げを開始したが、バランスシートの規模は4.5兆ドル規模に維持したままでいる。
債券とは借用証書を転売可能としたようなもので、通常返済期限がある。米連銀が購入した債券は残存期間が8年7カ月までは既に償還が始まっており、米連銀に現金が戻ることにより、バランスシートが縮小する。
バランスシートの規模が維持できているのは、償還で得た現金を再投資して、債券を買い続けているからだ。政策委員たちは、この再投資を止めることにより、バランスシートの規模の漸減(ぜんげん)を図るとしている。
プラン通りなら6年で3.3兆円の強烈な引き締めに
6月に公表された内容は、4兆5000億ドルのバランスシートを当初月間100億ドルペースで縮小するというもの。内訳は米国債が60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)が40億ドル。縮小額の上限は米国債が300億ドル、MBSが200億ドルに達するまで、3カ月ごとに米国債を60億ドル、MBSを40億ドルずつ引き上げ、5~6年かけて、元のレベルに戻すとしている。また、年内に開始すると明言していた。
元のレベルという言葉通りならば、3.7兆ドル規模の資金が米連銀に戻ることになる。プラン通りならば、6年で3.3兆ドルに達する。2.5兆ドル規模という発言もあるが、いずれにせよ、時間はかけるものの強烈な引き締めとなる。
では、これまでの米市場がカネ余り相場であったことを鑑みれば、米連銀バランスシート縮小の影響は、どこに、どのように出てくるのだろうか。
Next: 主要国の多くが金融引き締め。だが米利上げ継続は日本株高につながる
主要国の多くが金融引き締めへ
2009年以降の株高は、米連銀の未曾有の量的緩和による資金供給、カネ余りが支えてきた。量的緩和を行ったのは、米中英欧日など、主要国のすべての中央銀行だ。
それにより、日欧主要国の国債はマイナス利回りまで買われ、ほとんどの株式市場は史上最高値を更新し続けてきた。カネ余り相場では、売るとさらにキャッシュが増えるので、いずれまた買われることになるのだ。
主要国のなかで、米連銀は年内にもバランスシートの正常化、つまり、資金の段階的な引き上げを画策している。
中国は元を対ドルで大きく変動させたくないところから、基本的な金融政策は米国追随だ。また、ECBも近い将来の金融政策の転換を示唆した。BOEは次回の会合で利上げが話し合われるとした。
主要国の多くが金融引き締めに転じると、今までのような一辺倒の上げ相場は期待し難くなってくる。資金が金融商品間、各国間を回るようになるからだ。
いったんは米国債売りが進む
株高、債券高を支えてきたカネ余りがなくなると、分散投資の基本通り、景気拡大+インフレでは、株買い債券売りとなり、その逆、景気後退+ディスインフレでは株売り債券買いとなる。そして、海外との資金の移動がより活発になる。限られた資金をより有効に運用しようとするからだ。
資金吸収の先陣を切るのは米国だ。それは、これまで償還分を買い続けてきたことを止める形を取るので、債券の売り圧力となる。
日欧は資金供給(債券買い)を続けるので、債券市場の大崩れはない。つまり、世界の債券市場では、いったん米国債売りが進む可能性が出てくる。これは長期金利の急上昇ともなり、米経済にはマイナス要因となる。
米利上げの継続は「日本株高」につながる
一方で、米の金利上昇、利回りアップは、米国の利付き商品の魅力を高める。特に、マイナス金利政策を採る日本やユーロ圏では、国内の運用先に乏しいので、米債を買い下がる可能性が出てくる。それが、米国の債券市場を下支えする。そうなると、米国の資金不足は、日欧の資金により埋められることになる。
つまり、米国は自国の金融正常化を、日欧の資金により円滑に進めることができる。バランスシートを縮小させながら、利上げも継続できるのだ。
日本株は当局と年金の買いによって、下値は堅い。上値は海外投資家の動向によるが、それはドル円相場の影響を強く受ける。ドル円相場は日米金利差に反応する。つまり、米の利上げ継続は、日本株高につながる可能性が高い。
Next: カネ余りが生んだ「格差」が、その正常化によりさらに深刻化する?
格差問題のパラドックス
一方、この資金供給急増期間に資産を急増させたのは富裕層で、大多数の人の資産の伸びはそれほどではない。中産層はむしろ没落している。
ここで主要各国が引き締めに転じ、今後の資金急減期間に、富裕層が資産の減少を防ぐことができれば、大多数の人の資産が減少することになる。これまで誰も経験して来なかった規模のカネ余りと格差拡大、その正常化によるさらなる格差拡大が、地政学的リスクの高まりにつながらないように願いたい。
(続きはご購読ください。初月無料です)
※7月18日~20日号のメルマガにて、本記事の続編(図版入りの詳細解説・全4回)が掲載されています。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐに読めます。
<初月無料購読ですぐ読める! メルマガ7月配信済みバックナンバー>
・カネ余り相場と、資金循環相場 4(7/20)
・カネ余り相場と、資金循環相場 3(7/19)
・カネ余り相場と、資金循環相場 2(7/18)
・カネ余り相場と、資金循環相場 1(7/18)
・資金流入なき株高(7/13)
・Q&A:コツコツドカンへの対処(7/12)
・Q&A:メンタル面で意識することは?(7/11)
・的外れの国防論議(7/10)
・米国のカネ余り相場の終わりと、利上げの関係(7/6)
・米国カネ余り相場の終わり(7/5)
・米国の若者は、ビデオゲームに夢中で、ハッピー!(7/4)
・トレンドライン(3)(7/3)
・トレンドライン(2)(7/3)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
・ファンドマネージャーの世襲をどう思う?
・米、シリアと本格対立か?(6/28)
・高まる邦銀のリスク(6/27)
・下値を探る原油価格(6/26)
・トレンドライン(1)(6/22)
・仮想通貨は、「仮想の」通貨(6/21)
・Q&A:AIはトレーダーを失職させる?(6/20)
・波動を読む(6/19)
・Q&A:イベント時のポジション(6/19)
・目的のためには、手段を選ばぬ!(6/16)
・Q&A:特定の時間に動く気がする(6/14)
・Q&A:ヘッジファンドの投資戦略(6/13)
・機能不全の日本の経済政策(6/12)
・ローソク足−2(6/11)
・不安な個人、立ちすくむ国家:経済産業省−3(6/8)
・不安な個人、立ちすくむ国家:経済産業省−2(6/7)
・不安な個人、立ちすくむ国家:経済産業省−1(6/6)
・カネ余り相場はいつまで?(6/5)
・ローソク足−1(6/5)
・主な経済ニュース(6/1)
※6月以前に配信された記事を読むには、7月分すべて無料の定期購読手続きを完了後、ご希望の配信月分バックナンバーをお求めください。
※矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』好評配信中!ご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2017年6月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中
相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―
[月額880円(税込) 毎週月曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
ご好評のメルマガ「相場はあなたの夢をかなえる」に、フォローアップで市場の動きを知る ―有料版― が登場。本文は毎週月曜日の寄り付き前。無料のフォローアップは週3,4回、ホットなトピックについて、より忌憚のない本音を語る。「生き残りのディーリング」の著者の相場解説!