ついに新しいiPhoneが発売されましたが、Appleの決算にどの様な影響を与えるでしょうか。ティム・クックCEOの勇気ある経営戦略について考察します。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年10月3日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。
レッドオーシャン(激しい競争市場)を勝ち抜くアップルの経営戦略
「新しいiPhone」に込められたティム・クックCEOの狙い
ついに、皆さんが待ち望んでいた新しいiPhoneが発売になりましたね。皆さんはどのモデルを購入するか、既に決められましたでしょうか。
(私は音声入力が欠かせないので、数年前からAndroidユーザーですが、新しいiPhoneの発表はいつもドキドキさせられますね)
今日のメルマガは、今回のiPhoneの発表を受けて、Appleの決算にどの様な影響があるのかというのを少し考察してみたいと思います。
念のために書いておくと、本稿は、新しいiPhoneのスペックや機能といったものを分析するものではありません。あくまで、決算関連の話題になります。
今回の製品発表会を拝見して、新しいiPhoneの、特にカメラの進化には驚きましたが、それ以上にティム・クックCEOの経営戦略に個人的には大きく感銘を受けました。
Appleは成長率で苦しい状況
直近のAppleの決算を見てみましょう。
売上で見ると、$45B(約4兆5,000億円)と異常に大きな売上となっていますが、YoY+7%と一桁成長に止まっているという点を指摘せずにはいられません。
営業利益も$10B(約1兆円)を越えており、収益性という点でも申し分ないことは間違いありませんが、GoogleやAmazonといった企業が未だにYoY+20%以上で成長しているのを見ると、成長率という点が一番大きなネックになっていることは間違いありません。
iPhoneはAppleの売上の半分以上を占める主力製品
皆さんは、Appleの売上のうち、iPhoneが占める割合をご存知でしょうか。
四半期当たり$45B(約4兆5,000億円)の売上の内、何とiPhoneは、その半分以上の$25B(約2兆5,000億円)を占める製品群になっています。
つまり、Appleの売上の半分以上は、iPhoneからもたらされるものであり、iPhoneセグメントが最大の製品セグメントである、ということになります。
その最大の製品セグメントで、販売数はYoY+2%、売上ベースでYoY+3%と伸び悩んでいることは、全体の成長率に大きく影響していると言えます。
Next: 中国市場で停滞しはじめたiPhoneに活を入れたティム・クック
「頼みの綱」の中国でのiPhoneの伸びが止まりつつあった…
ここ数年間、iPhoneセグメントの成長は、中国におけるiPhone販売が大きな要因でした。
ところが最近、中国におけるiPhoneの成長率が止まってきているだけではなく、前年同期でマイナスのケースにまで落ちてきてしまっています。
レッドオーシャンでも成長する方法 = 値上げ!
そんな中、今回の新製品発表会では、iPhone 8、iPhone 8 Plus だけではなく、iPhone Xという豪華版が発表されました。
価格帯で見れば、iPhone 8の一番安いモデルはこれまで通り$699(約69,900円)であるのに対し、iPhone X は一番安いモデルが$999(約99,900円)と、約1.5倍の値段になっています。
iPhoneの様な高価なスマートフォン市場というのは、すでにレッドオーシャンになっています。
既に、ひとつ前のバージョンのiPhoneであっても、十分な機能を有しているだけではなく、iPhoneよりも安い値段のAndroidフォンはどんどん進化しており、Appleとしては販売台数を大きく増やしていくというのが非常に難しい市場になっています。
言わば、この様なレッドオーシャンのマーケットの中で、自社の成長率を上げるために、ティム・クックCEOが出した答えが「値上げ」だったわけです。
で決まりますので、売上を増やしたければ販売台数を増やすか単価を上げる、しかありません。
上で述べたように、販売台数を大きく上げるのは非常に難しい状況であるため、それなら値段をあげれば良い、という発想です。それもちょっとした値上げではなく、事実上50%値上げした新端末を発表する、という施策に打って出たわけです。
当たり前といえば当たり前の話ですが、今回のAppleの新製品発表会を見ていて、一番衝撃を受けたのは、このiPhone Xのプライシングでした。
ティム・クックCEOは就任以来、「スティーブ・ジョブスのようにはなれない」と批判的な目で見られることも多かった気がします。今回のこの「英断」を見て、まさに世界一のCEOは彼なのではないか、と改めて思い知らされた次第です。
50%値上げした製品を発表するというのは、とても勇気がいることだと思います。いくら技術的に製品的に優れているとは言え、本当に売れる製品になるのかというのは、出してみなければ分かりません。
皆さんが同じ様なレッドオーシャン市場にいるとして、既存製品よりも50%も高い値段の新製品を出す勇気がありますか?
Next: 「iPhone X」は異常に好意的に受け入れられている
「iPhone X」は異常に好意的に受け入れられている
「The iPhone X overshadowed everything else at the Apple launch event」というレポートの中に、iPhone Xが異常に好意的に受け入れられている、という内容がありました。
「Appleの新製品発表会を見て、どの新製品を買う予定ですか」という質問に対して、34%の人が「iPhone X を買いたい」と答えたという内容です。
もちろん新製品発表会を見ている人に限った調査ですので、全数調査ではありませんが、少なくてもAppleのファンにとっては、iPhone Xが非常に魅力的に映っていることには変わりありません。
iPad Proが布石だった?
「50%も値段が高い新製品を出す」というとギャンブルをしている様に聞こえますが、個人的には昨年までバージョンアップを続けていたiPad Proが布石だったのではないかと思います。
iPadは、iPhone以上に製品サイクルが長く、一度購入すると長期間使えてしまうため、買い替えがなかなか起こりにくい製品でした。
従って前年同期などの伸び率もあまり高くなく、ある意味停滞していた製品群でもありました。
そんな中で、iPad Pro、特に9.7インチのiPad Proを発売して以降、直近の決算でも販売台数がYoY+15%、売上ベースではYoY+2%と、成長基調に戻ってきたという事実があります。
この様に、一見レッドオーシャンに見えるマーケットであっても、しっかりユーザーに受け入れられる製品を出せば、まだまだ成長基調に乗せられるというデータが、内部ではあったのではないでしょうか。
Next: iPhoneセグメントの成長率をシミュレーションしてみる
iPhoneセグメントの成長率をシミュレーションしてみる
仮に前年とまったく同じ人数がiPhoneを購入するとしても、前年の購入者の半分の人がiPhone Xを購入したとすると、iPhoneセグメントの売上は、単純計算でYoY+25%になります。仮に1/4の人がiPhone Xを購入したとしても、単純計算で売上がYoY+12.5%になるわけです。
そのくらい、この「50%割高端末」が売上に与える影響は大きいのです。
繰り返しになりますが、言われてみれば当たり前の話ですが、世界最大の企業であり、世界で最も競争が激しいとも言えるスマートフォンマーケットの中で、このような打ち手を打ってきたティム・クックCEO、そしてAppleに改めて驚かされた次第です。
皆さんはどう思われましたか?
Source:Apple Inc. Q3 2017 Unaudited Summary Data
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