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5年ぶり減収減益 トヨタが怯える「トランプ以外」の隠れリスクとは?=栫井駿介

トヨタ自動車<7203>の第3四半期決算は5年ぶりの減収減益となり、株価は下落基調となっています。5年間トップの座を守ってきた世界自動車販売台数でもフォルクスワーゲンに抜かれてしまいました。トヨタの株価はこれからどうなるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

安全運転とは言えないトヨタ。販売減少と円高のダブルパンチに注意

日本が誇る優良企業・トヨタ自動車

トヨタ自動車は日本最大の時価総額(約20兆円)を誇る会社です。関連産業の裾野が広く、名実ともに日本経済を支えている会社です。

単に規模が大きいだけではなく、その経営手法は世界から注目を集めています。「カンバン方式」や「カイゼン」などのキーワードに代表されるトヨタ生産方式は、世界の名だたるビジネススクールの教材としても取り上げられるほどです。

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優れた生産方式によって、売上高営業利益率は高い水準を誇ります。ライバルのフォルクスワーゲンが6%(特殊要因除く)なのに対し、トヨタは10%です。もちろん、トヨタの自動車は世界中から高い評価を受けています。

トヨタ自動車<7203> 日足(SBI証券提供)

トヨタがその力を存分に発揮しているのがアメリカです。売上の約3分の1は北米であり、利益に大きく貢献しています。アメリカでの自動車販売シェアは14%にも及び、同国に本社を持つGMやフォードと肩を並べています。

このようにいいところを挙げればきりがないほどの優良企業ですが、自動車業界を取り巻く環境を見ると、決して明るい話ばかりではありません。

世界の主戦場はアメリカから中国へ

トヨタが自動車販売台数世界一の座から陥落してしまった最大の要因は、中国市場の動向です。中国の中間層の拡大は凄まじく、自動車販売台数はアメリカを上回り、圧倒的な世界一の規模を誇ります(中国:約2,400万台、米国:約1,700万台、日本:約500万台)。販売台数を稼ごうと思ったら、中国市場を取り込むことはもはや不可欠なのです。

トヨタの中国市場における市場シェアは約4%にすぎませんが、フォルクスワーゲンは約10%に及びます。フォルクスワーゲンはアメリカで排ガス規制に関する不正が発覚し、同国でのシェアを落としましたが、中国市場はその問題とはほとんど無縁であったため、市場の拡大に伴い大きく販売台数を伸ばしたのです。

もちろんトヨタも中国市場での販売を諦めているわけではありません。しかし、これまでの出遅れや、日中関係悪化というリスクも常に抱えることから、中国でシェアを伸ばすことは容易ではなく、世界一の座を奪回するのは当面難しいと考えられます。

Next: エコカー・自動運転車の開発が重荷に/スズキとの提携効果はどの程度?



エコカー・自動運転車の開発が重荷に

販売台数で世界一になれなかったとしても、株主としては利益を出してもらえれば問題ありません。高い利益率を継続できれば、十分株主に報いることができるでしょう。しかし、それすら難しくなる可能性があるのが自動車業界の現状です。

自動車業界は大きな変革期に差し掛かっています。フォルクスワーゲンの排ガス不正の発端となったのが、環境規制です。各国が環境に優しい自動車の販売を推奨していることから、世界的なエコカー開発競争が激化しています。主流になるのが電気自動車なのか燃料電池自動車なのかも定まらず、各社は両にらみで開発を続けなければならないのです。

開発競争はエコカーだけではありません。各社が必死になって追い求めているのが自動運転車の開発です。自動車メーカーにとどまらず、アップルやグーグルなどのIT企業も自動運転車に開発に多額の資金をつぎ込んでいます。

しかし、資金をいくらつぎ込んだところで、各社が目指しているゴールは似たようなものでしょう。うまく開発できたとしても、差別化を図ることは容易でなく、最終的には価格競争に陥ってしまう可能性が否定できません。当面は研究開発費の増加が自動車メーカーの利益を圧迫することになるでしょう。

いくら負担が重いからと言って、世界を代表する自動車メーカーである以上、研究開発を止めるわけには行きません。トヨタの研究開発費は約1兆円と、売上高の約4%に上ります。株主は研究開発費の動向に注意を払う必要があるでしょう。

スズキとの提携は双方にメリット

自動車業界の現状を表しているのが、トヨタとスズキ<7269>の業務提携です。

スズキも大手自動車メーカーの一角として研究開発競争に参加を余儀なくされていますが、世界の大手企業と比べて規模が小さく、研究開発に巨額の資金を回す余裕はありません。そこで、少しでも負担を軽くすべく、同じ日本企業であり旧知のトヨタに協力を申し出たと考えられます。

スズキ<7269> 日足(SBI証券提供)

スズキはかつてフォルクスワーゲンと提携していましたが、2015年に最終的に裁判を経てようやく提携を解消しました。そのような苦い経験があるにもかかわらず提携を申し出るということは、それだけ切羽詰まった環境があるのです。

この提携は、もちろんトヨタにとってもメリットがあります。トヨタは中国をはじめとする世界の成長市場を取り込めていませんが、スズキはインドで約4割という圧倒的なシェアを持ちます。

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人口や経済成長を考えると、インドはこれから中国を上回る成長市場になることが想定されます。トヨタはスズキが持つインドにおける販売網やノウハウを吸収して、将来の販売台数増加につなげたいという思惑があるのでしょう。

Next: 最大のリスクは「トランプ大統領」にあらず。景気と為替に要注意



最大のリスクは「トランプ大統領」ではない

アメリカ集中によるリスクは成長力だけではありません。目下騒がしくなっているのが、トランプ大統領の「口先介入」です。コストの高いアメリカでの工場建設を強要されるようなことがあれば、マイナスの影響が出ることは確かです。

しかし、私は「トランプリスク」をさほど問題視していません。トヨタはすでにアメリカに10ヶ所の工場を建設し、13万人の雇用を生み出しています。新たに工場を建設するとしても、それはこれまでの延長線でしかないため、大きな影響は出ないと考えられます。

それ以上に重大なリスクは、景気悪化時に販売減少と円高に同時に襲われることです。

景気が悪化すると、投資家はリスク回避の動きを加速させ、円高ドル安となります。トヨタは為替が1円円高になるだけで営業利益が約400億円減少するとされていますから、円高になるほどダメージは甚大です。景気悪化により自動車の販売も減少するでしょうから、売上が減って利益率も下がるというダブルパンチを受け、大幅な業績悪化が想定されます。

実際に、リーマン・ショック後の2008年度決算では、4,300億円もの最終赤字を計上しました。このような業績悪化リスクは企業努力でどうにかできるものではなく、投資を考えるならまず念頭に置かなければなりません。

景気に関しては決して芳しくない兆候が現れています。米国の新車販売台数は昨年頭打ちとなり、リーマン・ショックからの回復局面の終焉が見えつつあります。信用力の高くない「サブプライム」自動車ローンも増加していると言われ、既に過熱感すら漂っています。

トヨタへの投資は「安全運転」とは言い難い

このようにトヨタ自動車は日本最大の時価総額を誇り、一見安心感があるように思えますが、リスクを考えると決して安易に投資できる銘柄ではありません

もちろん、製品や経営能力は随一のものがあり、優良企業であることには違いありません。そのため、投資するなら上記のようなリスクを理解した上で、十分に割安となるタイミングを見計らうことが成果を上げるうえでは重要と言えるでしょう。

つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年2月8日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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