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消費増税は最悪のタイミング。低所得者と老人の生活を壊し、企業と富裕層を喜ばせる愚策=斎藤満

10月から消費税が10%に引き上げられる予定です。タイミングとしては最悪で、とくに低所得者や年金暮らしの高齢者には、生活破壊的な影響があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年8月14日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

凄まじい消費税の生活破壊力。この先、間違いなく景気は冷え込む

最悪の環境で消費税引き上げ

10月から消費税が10%に引き上げられる予定です。

政府は個人消費が堅調で、内需に支えられた景気回復が続いている、として予定通り増税する予定ですが、タイミングとしては最悪と言えます。

確かに個人消費はGDP(国内総生産)統計でも家計調査ベースでも4-6月は前期比0.6%の増加となっていました。しかし、大型連休で使いすぎたのか6月は反落し、消費マインドはこの1年半、悪化を続けています。

実質賃金が減少傾向を続けているうえに、税、社会保険料が増えて、家計の懐はむしろ苦しくなっています。

勤労者世帯の税、社会保険料負担を合わせた非消費支出は月平均で2012年の8万3,900円から2018年には9万1,600円に増えています。この6年間に勤労者世帯の消費はやはり月平均で27万6,830円から27万5,706円に減少しています。この間には消費増税もあって物価が6.6%も上がっているので、実質では7%も減少しています。

政府日銀の言う「所得から支出への前向きな循環」は働いておらず、4-6月の消費増は天皇即位の祝儀と、大型連休で支出がかさみ、あるいはたまに孫と会えて高齢者が無理な支出を増やした様子が伺えます。

その分、6月以降は消費の反落が見えます。見た目ほど消費の実態がよくないうえに、これから経済に負担となる問題が続きます。消費税対策くらいでは、この増税の影響は吸収できません

内閣府の「景気動向指数」は6月の景気が大きく反落したことを示していますが、続く7月は西日本の豪雨関東での長雨日照不足で農産物が打撃を受け、日韓関係のこじれで物流、観光両面で影響が出始めました。トランプ大統領の中国に対する第4次関税で株式市場、金融市場が不安定になり、リスク投資が委縮しています。また自衛隊を中東に派遣するのかどうかで政府は判断を迫られています。

9月には日米通商交渉の結果が発表され、農業、自動車での日本の負担が強いられそうです。そして10月にはボリス・ジョンソン首相の英国がハード・ブレグジットを選択するリスクが高まっています。

IMFなどは中国への第4次関税と英国のハード・ブレグジットは想定外で、これらを考慮すると世界景気は2%台の低成長となり、後退に陥る懸念が高まります。

そんな中で消費税が引き上げられるのです。

Next: 凄まじい消費税の生活破壊力。景気が冷えるのは当然



消費税の生活破壊力

消費税の影響は政府が考える以上に大きいと考えられます。

マクロでみると、消費税増税によっても、日本の税収は増えず、GDPに占める税収比率は消費税前の12.7%(1988年度)から昨年度は10.7%に低下しています。消費税増税による景気の悪化で、所得税・法人税が圧迫されるためと見られます。

実際、これまで消費税増税時には相応の規模の対策を講じてきましたが、いずれも期待に反し、景気は悪化を余儀なくされました。

今回も消費税負担額をはるかに上回る「還元」がなされ、景気対策も打たれますが、多くの国民はその「還元」や住宅、自動車での駆け込み対策の恩恵も受けられず、中間層などはまともに消費増税の影響を受けます。

一時的な「還元」や対策で痛み止めを打っても、消費税の負担はその後ずっと続きます。税負担を軽くしようとすれば、消費を抑えるしかありません。景気が冷えるのは当然です。

担税力に応じた税負担、税制を

消費税増税の問題は、一般に「逆進性」が指摘され、つまり低所得者ほど税負担が大きくなる点にあります。

そして、言い換えれば、本来担税力の低い年金生活者や、平均年収が170万円余りの非正規労働者に負担が重くのしかかり、富裕層、資産家の負担は軽微にすみます。所得税住民税が非課税の世帯も、消費税は同じ10%の税率で課せられます。

低所得者や年金暮らしの高齢者には、生活破壊的な影響があります

その一方で、企業はこの消費税をうまく利用すると、つまり非正規雇用を多用し、消費税の費用控除を利用すると、消費税逃れで利益を得ることもできます。

大企業が自前の派遣会社をつくり、そこから非正規雇用を使うと、正社員の賃金では控除されない「費用控除」が使え、消費者が負担した消費税の一部を「ピンハネ」できます。

企業にとっては、輸出の際に消費税分の「還付」を受けられ、さらに消費税の二重払い防止と称して、費用控除をうまく利用すると、消費税が利益をもたらす面があり、口には出さなくともそれだけ消費税に前向きな企業が多く、企業本位の安倍総理はそれもあって消費増税を決断した可能性が指摘されています。

結局、消費税は本来担税力のない低所得層、年金生活者に大きな負担を強いる反面、企業はその「血税」の一部をピンハネして利益を上げ、おまけに法人税の減税で潤っています。

利益を上げ、担税率の大きな法人の税を軽減し、担税力のない家計から増税で巻き上げる制度が消費税です。つまり、担税力の原理から最も矛盾する税制となります。

それを是正するには、消費税増税を止め、あるいは「れいわ新選組」が提言するように消費税を廃止し、代わって法人税の「抜け道」をふさぎ、所得税や社会保険料負担の累進税率の勾配を急にし、高所得者により多くの負担をしてもらい、株や有価証券売買での利益については20%の分離課税になっていますが、これを総合課税にすると、資産家の税負担も増え、税収の補填になります。

担税力のある人からとる分には、負担も軽微になるはずです。

Next: 企業や富裕層は海外逃亡?/日本にもゲイツ財団が必要



企業、富裕層の脱出?

「担税力のある人からとる」という案に対する反論として、企業や富裕層が日本から出て行ってしまい、かえって税収が減る、というのがあります。

しかし、今や中国、米国などを中心に世界的に税逃れのために海外に逃げる企業や資産家のチェックが厳しくなり、タックス・ヘイブン(税の回避地)の縛りも厳しくなりつつあります。

また、日本ほど均質で大きな市場は海外にもそうそうなく、しかもリスクが小さいだけに、多少の税の安さで海外に出ても、中国のように資金回収もできないところよりましです。

日本市場のメリットを理解しない企業が海外に流出しても、日本が失うものは知れています

日本にもゲイツ財団を

海外には税率が低くても、それを補う「寄付」が幅広くあって、資産家が税以外の負担をしています。

米国ではカーネギー・ホールなど、財を成した企業が寄付して市民の文化生活に貢献するものが多く、ビル・ゲイツの財団も有名です。一般の生活でもコンサートのシーズン・チケットを買えるような人には「貴方にふさわしい寄付額」が提示され、代金に上乗せして払います。その分、一般市民向けの音楽会のチケットは比較的安く設定され、ニューヨークのオペラも2,000円で観れます。

日本ではこうした寄付で運営される公共施設が少なく、それだけ音楽会もスポーツ観戦の費用も高くなっています。日本でも儲けた企業や資産家が積極期に寄付すれば、消費税などなくても、公共サービスは賄える面があります。

災害時にボランティアが広がりつつあるだけに、企業や資産家の間で寄付の文化が広がる可能性は期待できます。当面は税制面で寄付への支援、後押しを進めてはいかがかと思います。ギスギスした社会に潤いを与える面もあります。

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2019年8月配信分
  • 米大統領選挙時に景気後退リスク(8/21)
  • 長期金利の低下に狼狽する中央銀行(8/19)
  • 中国を危機に陥れる3つの爆弾(8/16)
  • 消費税より担税力に応じた税制を(8/14)
  • 長期金利低下が示唆する世界景気の弱さ(8/9)
  • FRBの利下げシナリオを変えたトランプの一撃(8/7)
  • 韓国存亡の危機(8/5)
  • FRBの支配権をめぐる争い(8/2)

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マンさんの経済あらかると』(2019年8月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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